研究課題/領域番号 |
24686100
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 光夫 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任准教授 (30361512)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 藻場再生技術 / 製鋼スラグ / 腐植物質 / 鉄 / 栄養塩 / 海藻培養 / モデル作成 / 海域環境 |
研究概要 |
藻場再生技術の確立に向け、 (1)異なる腐植様物質での鉄溶出特性評価、(2)鉄の形態による海藻生育への影響評価、(3)海藻群落形成モデルの改良・確立の3項目について、初年度の研究成果を踏まえて評価・検討を行った。 (1)においては、藻場再生実証試験が行われている海域の実海水を使った300Lの水槽での鉄分供給ユニット(製鋼スラグと腐植物質(堆肥))からの鉄溶出特性試験を実施した。この試験では、堆肥の役割を評価することを目的として鉄や栄養塩の挙動についてモニタリングしたほか、重金属の溶出についても評価・検討することで、環境基準値に照らした際の安全性についての確認を行った。 (2)では、海藻生育への堆肥の添加効果を明らかにするために、実験室内における海藻培養試験を行った。試験では実際のユニットに使用されているバーク堆肥以外にもリンゴと稲わら由来の堆肥を製鋼スラグとの混合試料として利用したほか、フミン酸やサリチル酸などを標準鉄(塩化鉄(III))へ添加して培養試験を行った。その結果、堆肥ではリンゴが最もよい成長率を示したほか、鉄に添加する有機化合物の違いによって、海藻成長率に違いがあることが確認された。またこの試験では、 (1)と関連させて鉄溶出と海藻成長の関係についてのデータ蓄積のために、培養前後の海水(培養液)中の鉄や栄養塩の分析も行った。 (3)では、北海道日本海側海域での海藻群落形成モデルの適用に向け、特に栄養塩(N,P)と鉄の海藻生育への影響に関わる式やパラメータについての再検討とデータ収集を行った。その結果、N, Pと鉄の関係についてモデルの改良がなされたほか、モデルの確立に向けて必要な検討項目を整理することができた。一方で、三重県志摩市及び長崎県対馬市で海域環境調査を行い、北海道以外の海域へのモデルの適用や本技術の導入可能性についての基礎的知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に示した(1)~(3)の各項目ともに概ね計画通りに進めることができたと考えている。(1)では、実海水を利用することで水質等の違いによる溶出特性について、鉄だけでなく、栄養塩及び重金属についてのデータを得ることができた。また(2)の海藻培養試験においては、製鋼スラグに添加する堆肥の違いによる試料からの鉄溶出挙動も評価していることから、鉄溶出特性と海藻生育の直接的な関係についての知見も得られた。なお(2)については、屋外水槽よりも実験室内での評価を続ける方が目的を達成できると判断されたため実験室内での実験を行ったが、それによって堆肥の種類、添加する有機化合物の種類による海藻生育の違いを体系的に評価することができた。特に精製されたフミン酸やサリチル酸などを使用した実験の結果については、鉄の形態による海藻生育への定量的評価に向けた重要なデータが得られたと考えている。(3)においては、鉄と栄養塩の海藻生育への相互作用についての評価を進めることができたことは、モデルの改良に向けた当初の予定に沿った成果であったと言える。またモデルの汎用化に向けた三重・対馬での海域環境調査も概ね予定通りに実施できている。これらの調査結果を踏まえて、実海域における海藻生育への鉄添加効果の検討を行うことが可能であり、次年度も引き続き調査・実験を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展・成果を踏まえて、(1)~(3)について引き続き評価・検討を行うとともに、新たに(4)技術導入による経済性評価の検討を行い、藻場再生技術の確立と合わせて、地域特性に配慮した技術導入設計手法確立に向けての基盤づくりを目指す。 (1), (2)は、これまでの研究結果の総括的評価を改めて実施した後で、新たな実験を行う。(1)では引き続き北海道・増毛町での屋外水槽試験を予定しており、必要に応じて室内における溶出試験の実施も検討する。(2)は鉄形態の海藻生育の違いについて更なる知見を得るために、有機化合物や鉄の両者について、製鋼スラグや堆肥ではなく標準物質・試薬の使用を中心として実験を進める。(3)については、栄養塩と鉄の海藻生育への相互作用に関わる式やパラメータ等について改めて検討を行うとともに、必要に応じてパラメータを求める実験を実施する。また海域環境調査結果等から、北海道以外の海域へのモデル適用について検討を進めるとともに、(1), (2)に関連して三重において海藻生育への鉄添加効果検証のための試験を実施し、データの蓄積およびまとめを行う。(4)については、経済性評価だけではなく、北海道増毛町をはじめとして複数の試験海域の試験結果を体系的に整理・評価を行い、それを基にして農漁村地域特性に応じた技術導入が進めるための指標づくりを行う。 以上を行うことで、当初の目的に沿った研究成果が最終的に得られるものと考えており、これまでと同様に研究協力者等と連携を取りながら研究を推進していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
大きな理由としては、当初の予定よりも物品費及び人件費・謝金が減少したことが挙げられる。物品費については、所属機関内で所有している物品・機器の利用等によって金額が抑えられることになった。また人件費については、研究分析補助者の雇用を派遣会社の利用を半年とし、残り半年は直接雇用としたことなどによる金額の差が生じた。これらの要因はあったが、次年度についてはこの費用を有効に活用できると考えている。 主に人件費と海域調査等への費用に使用することを予定している。これまで得られたデータや新たな実験を行うために研究補助者を雇用することは、より研究を進展させる上で必要と考えられる。また実海域での調査・実験を行うために使用することによって、本研究の目的達成に向けて有効な研究費の執行ができるものと考えている。
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