研究課題
本研究の目的は高速点火核融合において中性子の発生分布を画像として計測する技術を開発する事で、核融合燃料の温度分布計測を可能にすることで、高速点火核融合研究に貢献するというものである。十分な中性子発生数が得られるようにするために1.トリチウム添加ターゲットを開発し、その後2.中性子画像計測器を開発する。トリチウム添加ターゲットに関してはH24年度の研究成果でトリチウム-重水素置換反応は紫外線照射により促進作用が認められた。H25年度には紫外線の光量を増加させる為にレーザー装置をトリチウム充填装置内に設置した。今後実験を開始する。一方中性子画像計測でも大きな進展があった。中性子を結像するペナンブラと呼ばれる形状をしたピンホールを設計・製作し、核融合実験に導入して結像試験を行った。H25年度の核融合実験ではまだトリチウム添加ターゲットが導入できなかった為に、中性子発せ数が不足し中性子結像は出来なかった。中性子のかわりに高エネルギーX線は大量に発生し、中性子と結像に関して性質が似ているためこれを利用して計測試験を行った。シンチレーターアレー装置部分がまだ完成していない為、これのかわりにイメージングプレートを用いた。クリアな半影画像が得られ、その画像を解析処理する事で高エネルギーX線画像を観測する事に成功した。この画像データは高速点火の電子の軌道を始めて観測した事になり、これまで解明されてこなかった高速電子の発生角度分布を直接計測する事に成功した。このように高速点火核融合に大きく貢献した。また中性子画像を光信号に変換するシンチレーターアレー部分の試作機を作り、放射線源を用いた試験でシンチレーション信号を確認した。本年度はシンチレーション画像計測部の開発完成させる事で計測器を完成させる。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、H25年度までにトリチウム添加ターゲットの開発を完了し、中性子画像計測器の導入まで行なう予定であった。H26にはイオン温度計測まで持ち込むのが当初計画であった。実際にはトリチウム添加ターゲットは1年遅れており、今年度実現する見込みである。これはトリチウム充填装置内のトリチウム回収装置(トリチウムの環境への漏洩を防ぐ装置)の故障があったため、トリチウムを扱う実験が9ヶ月遅延した。一方、トリチウムを扱わずに基礎実験を行なう手法を考案し、レーザー光による重水素-トリチウム置換実験の基礎研究が進んだ。改修工事は完了し、また本研究を推進する為に新たに共同研究者(助教)が加わったため、研究はさらに加速される。一方、中性子画像計測器のうち結像部(ペナンブラピンホール)は2号機が製作され核融合実験に導入され、X線での結像計測には成功し、高速点火実験では始めて高速電子の挙動を直接観測した。中性子画像計測器のうちシンチレーターアレー部の試作には成功しているが、中性子での撮像試験はまだ完了していない。本計測器の開発に博士後期課程の学生が研究を分担する事に成った。最後にイオン温度計測を行なう為の改良型計測器の開発であるが、当初予定よりも簡易な装置で計測が出来る事を考案した。これはターゲットへのトリチウム添加量を1%に制御し、上述の装置をもう一台作るだけで実現できる、より簡便で、効率的な手法である。このように、トリチウム添加ターゲットの開発は1年遅れ、中性子画像計測器開発は順調、すでに高速点火核融合研究への貢献があり、イオン温度計測への発展はさらに効率の良い方法の考案があったなど、全体としてみればおおむね順調といえる。
本年度は最終年度である。本年度に残された課題は、1.トリチウム添加ターゲット開発の完成、2.中性子画像計測の開発の完成、3.高速点火レーザー核融合での中性子画像の計測である。1.に関して修士2回生の学生と助教が本研究を専門で推進する事に成った。ターゲットに十分なエネルギーの紫外光を照射できるレーザー装置を導入するなど着々と準備が進んでいる。本年度8月までに重水素と軽水素を用いて置換反応研究を行い、最適な条件を探求する。その後トリチウムを用いて実際にトリチウム添加ターゲットを製作する。2.に関して、中性子画像計測装置のうち今年度行なうものは、シンチレーターアレーとゲートイメージインテンシファイアCCDカメラ(ICCDカメラ)からなる装置である。液体シンチレーターアレーの試作機が完成している。本年はまずこのシンチレーターアレーと密封中性子源を用いて中性子による撮像実験を開始する。光伝送効率のよい光学系を用いることで、中性子線源で明瞭なシンチレーションパターンを撮像する事が目的である。3.に関して高速点火実験が2014年11月から2015年2月に決定した。この実験期間中にトリチウムターゲットをもちいた核融合実験と、2.で完成した装置を用いた中性子画像撮像実験を行なう。現在懸念されている問題点は、現状高速点火核融合実験の計画が遅れており、今年度はイオン温度が1keV程度までしか上がらない可能性が危惧されている。その場合中性子生成数が少なく、中性子画像の計測は困難になる。その場合制動放射X線の画像を取得する事で、計測器の性能評価を行なう。この計測はH25の成果のように高速点火重要な物理を直接観測するものであり、大きな貢献をもたらす事が出来る。
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Plasma and Fusion Research
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