研究課題
平成25年度には、統合国際掘削計画(IODP)第329次(南太平洋還流域)、および第337次(下北半島沖)掘削研究航海、または熊野灘泥火山にて行われた地球深部探査船「ちきゅう」掘削航海#906にて採取し、炭素、窒素安定同位体を含ませた基質を投入して培養を行った試料を用いて解析を行った。それぞれ、地球上で最も栄養に乏しい環境(第329次)、科学海洋掘削の歴史上最も深い海底下深度(第337次)、及び天然パイプライン構造を上昇してきた海底下深部環境(泥火山)を由来とする試料である。前年度までに3000本程のバイアル培養を準備し、経時サンプルの取得や、微生物数が少なく、堆積物粒子が多く含まれる試料から細胞を選択的に取得する技術の確立を行ってきた。平成25年度にはこれを活用し、それぞれの試料からの細胞取り出し、分析用試料台へのマウンティングなどを実施した。その後、準備した試料をNanoSIMSによって分析したところ、栄養に乏しい環境である南太平洋環流域の試料において、1.6年の培養後に従属栄養基質の取り込みを多数確認した。また、下北半島沖、および熊野灘泥火山で得られた試料については、2ヶ月培養後の試料から細胞を取り出して分析したところ、有意な基質の取り込みは認められず、継続的に培養を行っている。また、金ナノ粒子による微生物種特定技術は、標準微生物を用いた高感度シグナル検出の成果を論文として発表することができた。
2: おおむね順調に進展している
計画として設定した項目(海底下掘削試料の取得、それを用いた長期培養、培養試料からの少数細胞の選択濃縮、および細胞のNanoSIMS分析)を順調に実施している。分析に当たって必要な標準技術をしっかり開発したことによって、当初想定していたよりも細胞数が少ない試料においても分析を実施したり、細胞以外の粒子が混ざっていた場合には特定が不可能となる基質の取り込みが見られない試料、細胞においてもある程度結果を出すことが出来ている。
現在挑戦している海底下環境は、ほぼ間違いなく地球環境の中で最も生命の存続が難しい環境であり、生命の存続の限界に近い。このような環境から取得した試料について分析を行うためには、試料調製において極度に厳密な操作を必要としており、現在の要素技術を適宜見直しながら実施することが不可欠となっている。上記の点に留意しながら今後も準備している培養試料からの細胞取出しや分析試料調製、NanoSIMS解析などを実施し、超極限環境に生息する生命の姿を明らかにすることを目指す。
平成25年度には、分析装置であるNanoSIMSや細胞を堆積物から分離する実験などに必要なセルソーターなどの交換部品の購入を予定していたが、部品を交換せずとも順調に分析が行えたため、購入を次年度に行うこととした。また、試料の培養期間を延長したことから消耗品の消費が抑えられた。平成26年度にはNanoSIMSやセルソーターに関連する交換部品の購入を計画しているほか、延長した培養試料を含め、多数の試料を用いた実験を予定しているため、消耗品の購入も必要である。
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