研究課題/領域番号 |
24687010
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大西 暁士 独立行政法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (70569102)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 網膜 / 神経回路 / 中心窩 |
研究実績の概要 |
網膜神経細胞の分化および生理機能を担う分子メカニズムはサブタイプレベルで解明が進む一方、これらサブタイプ同士の神経回路形成を担う分子機序は未解明である。本年度は、錐体視細胞のサブタイプ特異的な回路形成に関与する分子群の探索および機能解析を重点的に行った。我々はこれまでに錐体視細胞サブタイプの分化決定を担うPias3の発現が、レチノイドX受容体の活性に依存する事を報告している。同受容体は錐体視細胞以外の網膜神経でも発現する事から、レチノイドX受容体の活性化に関与する分子を探索・解析を行い、以下の結果を得た。 まず、レチノイドX受容体のリガンド供給分子としてAldh1a1およびCyp1b1を特定した。In situハイブリダイゼーションによる発現解析の結果、これらの分子はマウス網膜において発生期の背側ミュラー細胞で高い発現を示した。またこれらの分子とレチノイド受容体を培養細胞に共発現させると、レチノイドX受容体の転写活性が有意に上昇した。即ち、背側網膜においてAldh1a1, Cyp1b1の2つの分子がレチノイドX受容体を活性化することが示唆された。 次に、マウス背側網膜におけるAldh1a1の発現が、ミュラー細胞および一部の背側アマクリン細胞で観察された。通常の生育条件ではアマクリン細胞における発現量は弱く判別が困難であったが、明順応環境において明瞭な染色像が得られた。これらの結果より、Aldh1a1は錐体視細胞が働く明順応環境下で発現が上昇し、レチノイドX受容体を発現する背側の神経細胞特異的に遺伝子発現が誘導される事が示唆された。 さらに、発生期および成体のマーモセット網膜においてAldh1a1の発現を免疫組織化学的に解析したところ、中心窩部分のミュラー細胞に強い染色像が観察された。また、マウス網膜と比較してより多くのAldh1a1陽性アマクリン細胞が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
錐体視細胞のサブタイプ決定を担うレチノイドX受容体は他の網膜神経細胞サブタイプでも発現している。レチノイドX受容体のKOマウスは入手不能に陥り解析が遅れている一方、リガンドを供給する2つの分子を同定したことによりサブタイプの遺伝子発現の多様性を解析する足掛かりが得られた。また、特定の光環境下でのみ機能する新規アマクリン細胞の存在を示す示唆的結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
錐体視細胞サブタイプ特異的な神経回路形成に関与する分子群の探索を推進する。研究機関移籍に伴いヒト視覚機能解析のモデルとして構造霊長類網膜を研究対象に加えた。霊長類網膜には赤緑錐体視細胞が集中する中心窩・黄斑構造を持つため、本研究から得られる成果を黄斑機能の分子発生学的解析へ発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
RXRg遺伝子座をLacZに置換しているノックアウトマウスの搬入を想定し、凍結受精卵からの戻しおよび搬入(通関)のための費用を計上していた。しかしながら、本マウスは作製者は維持しておらず、過去在籍研究機関および過去の供与先でも維持しておらず、本マウスの入手を断念せざるを得なかった。 対応策として、ノックアウトマウスおよび9-cisレチノイン酸可視化マウスの作製を開始した。マウス作製は理研CDB変異マウスユニットのサポートのもと順調に進めており、改変のためのベクターまで完成している。しかし、マウスの完成までに最速でも半年を要し年度を跨ぐことになるため、マウス作製のための予算の繰越を申請するに至った。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者は、錐体視細胞および神経節細胞で発現しているレチノイドX受容体のリガンド供給分子Aldh1a1が霊長類中心窩で高い発現を示す示唆的結果を得た。次年度はレチノイドX受容体のノックアウトマウスおよびレポーターマウスの作製・解析費用、霊長類でのGOF/LOF解析のための動物購入などに研究費を使用する。
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