本研究では、X線結晶構造解析によりボルトの立体構造を2.8A分解能以上の高分解能で構造決定することを目指して研究を進めた。ボルトは、MVPのみで樽型の粒子を形成することが知られており、昆虫細胞を用いた発現系を構築することにより、より純度の高いボルト試料を得る方法を検討した。2009年に報告した3.5A分解能の構造から、ボルトはウェスト部位(向かい合ったMVP・N末端同士の会合部位)の相互作用が弱くく、この部位の電子密度が不明瞭であった。したがって、MVPのN末端にロイシンジッパー(LZ)を導入することで、ウェスト部位の会合を強固にしたLZ-ボルトを昆虫細胞で発現することを試みた。LZ-ボルトは野生型と比較して約15倍以上発現し、昆虫細胞1L培養あたり80mgのLZ-ボルト粒子が得られるようになった。また、これまでのショ糖密度勾配遠心分離を主とした精製にゲル濾過やイオン交換による精製を加えたことで、より純度の高い均一な試料が得られるようになった。動的光散乱測定による粒子分布の幅(polydispersity)は3%台と野生型ボルトの8%よりもさらに均一な粒子を得る方法が確立された。この試料を用いて結晶化を行い、SPring-8のビームラインBL44XUにて回折実験を行った結果、最大で2.8Aの反射を確認することができた。現在は、多数の結晶を用いてボルトの高分解能回折強度データを収集している。
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