本年度においては、高次生物における遺伝子発現の確率的ダイナミクスのモデル化を目指して、1分子レベルでのタンパク質発現の挙動をリアルタイムで捉える測定システムの開発を行った。前年までの研究により、細胞内で発現しているタンパク質を1分子レベルでイメージングするライトシート型蛍光顕微鏡システムの開発、並びにマルチウェルを用いて膨大な数の遺伝子を一挙に解析できるハイスループットシステムの導入を行ってきた。本システムを用いてリアルタイム計測を行うには、一定時間ごとに各ウェルを巡回してタイムラプス観測を行う必要があるが、常に観察試料とライトシート光、観察対物レンズの間には熱ドリフトが生じており、定期的にこれらの位置関係の自動修正を行う必要があることが判明した。そこで代表者はライトシート光を構成する対物レンズと観察対物レンズの座標を3次元的に制御する機構を導入し、さらにこれらの位置ずれを対物レンズの座標にフィードバックさせる機構を導入した。また、培養条件下での細胞の測定を行うための温度チャンバーを対物レンズ系と干渉しないようにさらに導入することで、熱ドリフトの影響を最小化し、長時間の測定を安定して行うことができるようになった。 代表者はさらに、開発したシステムを用いて出芽酵母の十数個の遺伝子におけるタンパク質発現の動態を追跡した。結果、多くの遺伝子において複数個のタンパク質の発現が一挙に起こるバースト現象が観察され、各細胞におけるタンパク質の発現量はヘテロになっていることが確認された。これに対し、mRNAの発現量は各細胞で一様になっていることが別実験で観察されたことから、翻訳過程のゆらぎが全体のヘテロ性をコントロールしていることが分かってきた。現在バースト発現の法則性とメカニズムについてさらに解析を進めており、結果から真核細胞特有のノイズ制御機構を明らかにする予定である。
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