研究課題/領域番号 |
24687023
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 寛治 京都大学, 放射線生物研究センター, 講師 (90455204)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子生物 / チェックポイント / リン酸化 / キナーゼ |
研究概要 |
細胞内の全てのシグナル伝達径路はそれぞれ厳密に制御されている。一つの生命活動を完遂する為に複数のタンパク質複合体が協調、連携する。申請者はこれらの複合体間の連携機構の基本原理を追求するためDNA損傷応答におけるチェックポイント機構と呼ばれるタンパク質複合体のダイナミクス解析を行なうに至った。これまでの解析からチェックポイントタンパク質Rad9が、二つのキナーゼにより“段階的なリン酸化”を受け、DNA損傷部位へと結合し、解離する事を見出して来た。本研究ではRad9複合体がDNA損傷部位へと結合し、解離して行く様子を試験管内で再構成することに挑戦した。 先ずはRad9複合体及びその活性化因子であるRad17複合体の精製を行なった。両複合体の物理的相互作用を検出する事に成功し、ATP存在下でその相互作用がやや促進される事を見出した。現在はDNA損傷様構造体を含めた系における両複合体の相互作用を検討中である。 これら生化学的解析と並行して、段階的なリン酸化制御が普遍的なものかに応えるため、ヒト細胞を用いた解析を行なって来た。具体的な成果としてはヒトRad9タンパク質も段階的にリン酸化を受けている事があきらかとなり、初期リン酸化部位と後期リン酸化部位の二種類がある事が明らかとなった。興味深い事に両リン酸化ともに脱リン酸化酵素による制御を受けているが、機能する脱リン酸化酵素が異なる事が示唆された。初期リン酸化は一型脱リン酸化酵素が働いているようであった。実際に一型脱リン酸化酵素の結合するモチーフをRad9は有しており、その結合を強めたり弱めたりする事でRad9のリン酸化状態を操作する事に成功した。また、後期リン酸化は二型脱リン酸化酵素に依る制御を受けており、このリン酸化が亢進すると細胞毒性が増す事が明らかとなった。今後はこれらの知見を生化学的再構成へと導入し発展させて行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の主題はRad9複合体の段階的リン酸化によるフィードバック機構を試験管内で再現する事である。しかしながら、精製タンパク質複合体の精製に成功したものの、Rad9複合体とその活性化因子であるRad17複合体の精製に成功しているが、現在は両者の相互作用を検出したに留まっている。現在DNA損傷を模擬する基質を作製中であり、その上での複合体間の相互作用の検出を試みている。その一方で細胞内でのRad9の受けるリン酸化制御については多くの事が明らかとなった。これまではリン酸化酵素にのみ注目して来たが、実際には脱リン酸化酵素も大きな役割を担っており、異なる脱リン酸化酵素がRad9のそれぞれのリン酸化に作用している事が阻害剤実験から示唆された。具体的に脱リン酸化酵素の結合配列を見出す事ができ、その配列に異なる変異を入れる事で初期リン酸化の脱リン酸化の効果を弱めたり強めたりする事に成功した。これらは細胞内での解析であるが、試験管内再構成系へと応用可能な知見である。また、最終段階のリン酸化が亢進する変異を作製し細胞内で発現させたところ高い細胞毒性を示し、リン酸化は厳密に制御される必要が有る事が示唆された。実際に最終段階のリン酸化に結合するタンパク質を同定しており、酵母を用いたツーハイブリッドスクリーニングも行なう事で更に同定しようと試みている。 以上のように当初の申請内容から更に発展した知見が得られ、再構成系に応用可能な分子詳細が明らかとなった反面、本来の試験管内再構成系はまだ進捗の余地があるため“やや遅れている”との判断を下した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の主題はRad9複合体の受ける段階的リン酸化を試験管内で再構成し、分子構造学的に解析する事である。今後はまずは精製Rad9複合体及びRad17複合体とDNA損傷様構造との三者相互作用へと発展させて行く。その際のATPの要求性や、相互作用の強さをリン酸化模擬変異等の変異体を用いて解析する。これらの解析からリン酸化の、Rad9複合体と他者との相互作用へと及ぼす影響を知る事ができる。また、構造学的にも精製タンパク質を用いて高速原子間力顕微鏡等を通してダイナミックな構造変化とリン酸化の関連性についても言及したい。 また、本研究のこれまでの成果として画期的だったのは脱リン酸化酵素の関与の発見である。一型脱リン酸化酵素の結合配列と予想される部位が同定出来、また、その領域を操作する事でRad9の受ける脱リン酸化の効果を操作出来る様になった事は非常に画期的である。今後はこの脱リン酸化酵素の制御機構の生化学的な解析も組み込みたい。具体的には脱リン酸化酵素の結合配列の詳細解析を行い、試験管内でのリン酸化及び脱リン酸化がどう影響うけるか解析する。脱リン酸化とリン酸化酵素の量やRad9複合体と相互作用する強さを操作する事で段階的リン酸化が可能となるかもしれない。柱となる試験管内再構成系に、今回新たに明らかとなった脱リン酸化酵素による機能制御を組み入れる事でリン酸化フィードバックの分子詳細に迫る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
抗体の作製受注が遅れたため。抗原選定を11月中に終了する予定であった。Rad9のあらたなリン酸化部位を検出する為の抗体を作製する予定であったが、実際のリン酸化部位以外にもリン酸化されている事が別の系である、ヒト細胞の系で示唆できた。本研究の材料は分裂酵母のRad9タンパク質であるが、同様の現象が予想された。現在、リン酸化の度合いを検定中であり、検討が済み次第発注する予定である。 昨年度同様、リン酸化抗体の発注作製に使用する予定である。現在はRad9タンパク質のリン酸化の度合いを質量分析にて検討する事を試みており、明らかとなり次第発注予定である。
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