研究課題/領域番号 |
24687027
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
倉永 英里奈 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (90376591)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞移動 / 数理モデル / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
細胞移動は、個体発生においてだけでなく癌の浸潤や転移などの病態発症のプロセスに至るまで、生命活動の様々な局面に関与している。本研究では、個体における細胞移動の作動機序を解明する目的で、ショウジョウバエ雄性生殖器を取り囲む上皮組織の細胞集団移動をモデルに、個体における細胞移動の作動機序を解析した。 細胞の集団移動において、先導細胞(tip cells)による誘引物質の受容が移動の方向性を決定することが報告されている。加えて、ECM(細胞外基質)とその受容体であるインテグリンの接着が重要な役割を果たす事が知られている。本研究で注目した外生殖器回転を誘導する上皮組織は円形であり、tip cellsに相当する動態を示す細胞は観察されなかった。加えて、移動する上皮細胞集団の基底部にECMの構造が確認されなかったことから、既存の集団細胞移動様式では説明出来ないメカニズムの存在が示唆された。回転中の上皮組織を詳細に解析した結果、移動する個々の上皮細胞には左右非対称な極性が観察され、その極性に基づいて互いにつなぎ替えを起こす事で移動するメカニズムが示唆された。数理モデルによるシミュレーションによって、個々の細胞極性が同期することで集団移動を成し遂げるという、集団細胞移動の新たなメカニズムが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで明らかでなかった上皮組織の細胞集団移動に関するメカニズムとして、細胞接着を保ったままで動いて行く仕組みを見出した。前年度から論文は投稿しており、リバイスを重ねている。実験と数理モデルと異分野の組み合わせを分かりやすい形で発表することを目指しており、論文の実験の質は上昇している。
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今後の研究の推進方策 |
数理モデル研究者との共同研究をより強固にし、引き続き推進する。生殖器回転の開始のタイミングと停止のタイミングにも着目し、遺伝子発現プロファイルを作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスクリプトーム解析を用いた細胞移動の雌雄差を決める遺伝子を生化学的スクリーニングする予定でいたが、解析に用いるサンプル調整が難航し、計画が滞った。1回の実験につき20匹の蛹を用いたところ、GFP陽性細胞は12000個程度回収できたが、トランスクリプトーム解析を行うmRNA量には遠く及ばなかった。別の研究課題で行っている翅成虫原基を用いた実験では、1回の実験につき、3万-4万個の細胞が回収できたため、十分なmRNA量が抽出され、既にトランスクリプトーム解析を完了している。サンプルの細胞数の少なさと、少ない細胞からのmRNA抽出に難航したため、平成26年度中に委託する予定だったトランスクリプトーム解析が出来ず、研究に遅れが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
サンプルとなるA8背板前部領域細胞集団はもともと翅成虫原基に比べて細胞数も少なく、サンプルを調整する解剖手法にもスキルが必要である。我々はすでに複数回の検討を行っており、サンプル調整のスキル上達に従って、毎回の取得細胞数も上昇している。また、少ない細胞から精度の高いmRNAをロスなく抽出するために、これまで使用していたTrizolからPicoPure® RNA Isolation Kitに変更し、回収率の上昇を見込んでいる。以上のような対応策をとっているが、トランスクリプトーム解析に使用出来るmRNA量はまだ回収出来ておらず、サンプル抽出のさらなるスキルアップをし、次年度にRNAseqを遂行する。
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