研究課題/領域番号 |
24688008
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
寺本 英敏 独立行政法人農業生物資源研究所, 新機能素材研究開発ユニット, 主任研究員 (60391562)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 昆虫 / 生体機能利用 / バイオテクノロジー / 非天然アミノ酸 |
研究概要 |
本研究では、カイコ幼虫個体のタンパク質翻訳機構を改変し、高選択的な化学反応が可能な非天然アミノ酸を含有するシルクタンパク質を創製する。具体的には、①カイコ培養細胞で成功したタンパク質翻訳機構の改変がカイコ幼虫個体でも可能かどうか、②選択的な化学反応が可能な非天然アミノ酸をシルクタンパク質へ高効率に導入できるかどうか、という2点を明らかにすることを主な目標とし、本年度は、以下の4点を実施した。 (1)カイコ由来PheRS変異体(A450G)を発現させたカイコ培養細胞を、パラ位にアジド基・ブロモ基・ヨード基・シアノ基を持つフェニルアラニン(Phe)類縁体を含む培地中で培養した。いずれのPhe類縁体も通常濃度のPhe存在下ではタンパク質へ取り込まれなかったが、培地中のPhe濃度を大幅に低減させると取り込みが起こることを明らかにした。 (2)PheRS変異体(T407A)を絹糸腺で発現する遺伝子組換え(GM)カイコを作出し、同遺伝子をホモで有する系統を確立した。 (3)PheRS変異体(A450G)を絹糸腺で発現するGMカイコ幼虫に対し、クロル基、ブロモ基、およびアジド基を有するPhe類縁体(ClPhe, BrPhe, AzPhe)を投与し、シルクフィブロインタンパク質への取り込み効率を調査した。その結果、ClPheとBrPheは通常組成の飼料への添加によりフィブロイン中へ取り込まれるのに対し、AzPheの取り込みはほとんど起こらなかった。そこで飼料中のPhe含量を低減させたところ、AzPheの取り込み効率が向上することを見出した。 (4)フィブロイン中に導入したAzPheのアジド基は、末端アルキンを有する化合物とのクリック反応により選択的に反応させられることを明らかにした。また、反応は均一溶液中のみならず固体(繊維)状態でも進行することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の当初の目標は、「PheRS変異体を発現するGMカイコ幼虫へのPhe類縁体投与による生育・シルク産生量への影響およびタンパク質翻訳機構への取り込み有無を解析し、タンパク質翻訳機構の改変がカイコ幼虫個体でも可能かどうかを明らかにすること」、であった。研究の結果、カイコ幼虫個体でもタンパク質翻訳機構の改変が可能であることが明らかとなり、これまでに4種類のPhe類縁体がシルクフィブロインタンパク質中に導入可能であることを見出した。特に、アジド基を有するAzPheに関しては投与条件を最適化し、取り込み効率を向上させることにも成功した。さらに、当初26年度に計画していたアジド基の反応性検討について一部前倒しで実施し、クリック反応による選択的な修飾が可能であることを明らかにした。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
アジド基が導入されたシルクフィブロインはクリック反応を用いた化学修飾が容易に行えることが明らかになったことから、次年度は、アジド基導入フィブロインの特性(アジド基の安定性・反応性、材料への加工性等)をより詳細に明らかにする。これにより、将来的にアジド基導入フィブロインを医用材料等として応用していくための基盤となる知見を蓄積する。また、本年度系統を確立したPheRSのT407A変異体発現カイコ幼虫に対してPhe類縁体の投与試験を行い、A450G変異体発現系統と導入効率を比較する。さらに、非組換え系統に対してメチオニン類縁体を投与し、シルクタンパク質への導入有無を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬やプラスチック器具等の消耗品を効率的に使用した結果、研究費に若干の余剰が生じた。 次年度の研究費と合わせ、主にGMカイコへの投与実験に用いる試薬類や合成飼料の購入費に当て、研究をさらに加速する。
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