本研究では、カイコ幼虫個体のタンパク質翻訳機構を改変し、高選択的な化学反応が可能な非天然アミノ酸を含有するシルクタンパク質を創製する。具体的には、①カイコ培養細胞で成功したタンパク質翻訳機構の改変がカイコ幼虫個体でも可能かどうか、②選択的な 化学反応が可能な非天然アミノ酸をシルクタンパク質へ高効率に導入できるかどうか、という2点を明らかにすることを主な目標とし、本年度は、以下の3点を実施した。
(1)アジド基を有するPhe類縁体を導入したシルクタンパク質から、精練(セリシンの除去)・溶解・透析のプロセスを経て再生水溶液を調製した。再生水溶液中のフィブロインタンパク質は精練によって加水分解を受けているものの、アジド基の反応性は維持されていることを確認した。また、再生水溶液を乾燥して得られるフィルム中においても、アジド基を選択的に反応させられることを見出した。 (2)非組換えカイコ系統へ3種のメチオニン(Met)類縁体(アジドホモアラニン(Aha)、ホモプロパルギルグリシン(Hpg)、ホモアリルグリシン(Hag))を投与したところ、飼料中のMet含量を低減した状態であれば、3種全てのMet類縁体がシルクタンパク質中に取り込まれることを見出した。そのうちAhaとHpgに対しては、クリック反応により選択的に機能性分子を結合することができた。 (3)昨年度新たに確立した組換えカイコ系統(PheRS T407A変異体を発現)に各種のPhe類縁体を投与し、それらのシルクタンパク質への取り込み効率を従来の系統(PheRS A450G変異体を発現)と比較したところ、T407A変異体を発現する系統がPhe類縁体の取り込み効率に優れていることを見出した。
|