研究課題/領域番号 |
24688009
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
小林 佑理子 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (40610952)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | GWAS / Arabidopsis / Al tolerance / low pH tolerance / acid soil / natural variation |
研究実績の概要 |
農業上重要形質である酸性土壌耐性は、多数の遺伝子に支配されるポリジーン形質である。本研究では、シロイヌナズナを用いた全ゲノムにわたる一塩基多型(SNP)と耐性程度の相関性を調べるゲノムワイド関連解析(GWAS)により、酸性土壌耐性に関わる遺伝子座の網羅的解析と耐性差の仕組みを分子レベルで明らかにすることを目的とした。 世界中に分布する約200系統のシロイヌナズナを用いて、酸性土壌で問題となるAl及び低pHストレスに対する耐性を根の生育率により評価した。その結果、Al耐性は低pH耐性に比べて幅広い耐性差を示したことから、Al耐性には効果の大きいまたは複数の遺伝子の寄与が考えられた。また、集団構造解析ではおおまかに6つの地域の分集団に分かれることが示された。分集団間においてAl耐性差は観察されなかったが、分集団内では著しいAl耐性/感受性を示す複数の系統が存在し、自然突然変異体の可能性が示唆された。一方、低pHストレスに関しては、耐性/感受性を示す分集団が観察された。このように遺伝的背景が異なる系統群に関して、根の生育率と約20万SNPsを用いたGWASの結果、ゲノムワイドに有意なSNPが多数検出され、それらは両ストレス耐性間で異なっていた。これらのSNPsの表現型予測能力を評価したところ、Alまたは低pHストレス耐性に関連する140 SNPsまたは160 SNPsによって耐性バリエーションの約70%が説明できることが明らかとなった。有意なSNPにリンクする遺伝子の中には、Al耐性遺伝子リンゴ酸トランスポーター遺伝子AtALMT1が含まれており、そのプロモーターには、耐性と関連のあるトランスポゾンを含む複数の多型が存在した。また、レポーター遺伝子によるプロモーター多型活性試験と系統間の遺伝子発現量解析からAtALMT1プロモーター多型はAl耐性と相関を示すことが明らかにされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに行ったゲノムワイド関連解析(GWAS)から、酸性土壌耐性関連候補遺伝子を同定し、それら上位候補に関してT-DNA挿入遺伝子破壊株の耐性試験を行ったが、耐性または感受性の表現型が十分に得られなかった。その場合、遺伝子機能重複や偽陽性の可能性があるが、目標にしていた多重変異体破壊株作成や、機能重複を抑えて標的遺伝子の発現抑制ができる遺伝子組換え体の作成にやや遅れが生じている。 また、ゲノムワイドなエピスタシス(遺伝子間相互作用)の検出は、やや困難をともなっており、分子間相互作用を調べる分子の同定には解析方法や使用サンプルに工夫が必要であることがわかった。 また、遺伝子発現量の高さが耐性へ影響する遺伝子に関して、植物への過剰発現組換え実験を行う点について若干の遅延が生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
同定した候補遺伝子の絞り込み手法と、耐性の評価方法に関して、当初計画になかった解決方策を見出し研究を推進したい。 具体的には、使用するシロイヌナズナ系統、ソフトウェアなどエピスタシスの検出方法の検討と、転写因子とシス配列、タンパク質修飾酵素と標的タンパク質にターゲットを絞ったトランジェントアッセイによる試験管内相互作用試験の検討によりエピスタシスの同定を試みる。 また、遺伝子発現量の高さが耐性へ影響する遺伝子探索と評価に関して、GWASの結果とRNAseqを利用した系統間での網羅的遺伝子発現比較解析の統合により、候補遺伝子の迅速な同定を試みる。 さらに、植物の遺伝子組換え実験による遺伝子の機能解析、耐性評価は、アグロバクテリウム・リゾゲネスを介した毛状根形成組換え体の作成により迅速な解析に努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究過程で計画当初にない知見や、研究実施内容が増えたため、論文発表投稿時期が遅れたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究計画を修正しつつ本年度までの研究成果を来年度に論文発表する予定である。よって、論文発表や学会発表の機会が増えることが想定されたため、学会発表出張旅費、英文校閲代、出版料などに充てる。
|