研究課題/領域番号 |
24688014
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松村 成暢 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70467413)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高脂肪食 / 過食 / 肥満 |
研究実績の概要 |
油脂を摂取するとbetaエンドルフィン神経が活性化される。betaエンドルフィンは食品の嗜好性に関与することが知られており、mu受容体に結合してその効果を発揮する。mu受容体阻害剤であるnaltrexoneを投与すると油脂の摂取量が減少することから、油脂単独の嗜好性にもbetaエンドルフィンおよびmu受容体が関与していることが示唆される。 これまでの検討により油脂だけに限らず糖質の摂取によってもbetaエンドルフィンは活性化されることが明らかとなっているが、エンドルフィンが油脂と糖質、双方の嗜好性にどれだけ寄与しているのかは不明であった。また、エンドルフィン以外の神経細胞群も当然ながら嗜好性に関与している。そこで、これらの溶液の嗜好性にmu受容体がどのように関与しているのかを検討した。はじめに等カロリーになるように調整した糖質および油脂溶液を用いて2瓶選択試験をしたところ嗜好性はほぼ同等であった。そして、naltrexoneを投与して同様の検討を行ったところ、全体の摂取量は減少したものの、マウスは糖質溶液を好んで摂取した。つまり、mu受容体もしくはエンドルフィンが油脂の嗜好性に大きく寄与していること、一方で糖質の嗜好性にはあまり関与しないことが示唆された。さらに、同じマウスを用いて、阻害剤の投与無しに糖質と油脂の2瓶選択試験を連続して行ったところマウスは油脂に対して嗜好性を示すようになった。以上の結果より、油脂の嗜好性は糖質と比較してmu受容体およびエンドルフィンに大きく依存していること、また、油脂の嗜好性は連続摂取により強化されるが糖質はそのようなことが起こらないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では脂肪の嗜好性の形成過程を検討するにあたり、嗅覚除去マウスなどを用いて検討を行う予定であったが、naltrexone投与実験の予備実験に大きく時間をとられてしまったため検討を行うことができなかった。しかしながら、naltrexone投与実験で予想外の結果と研究の進展がみられた。このため当初の研究計画を変更する必要があったため。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪による過食のメカニズムの解明 脂肪は動物が本来もつ代謝のホメオスタシス(摂食調節、エネルギー消費の調節)を破綻させ体重増加を招く。このような過食という行動にも脂肪の嗜好性およびオピオイド系の関与が伺える。βエンドルフィンは視床下部弓状核に存在するニューロン(POMCニューロン)で産生される。このPOMCニューロンはグルコース代謝、エネルギー代謝に深く関与することが明らかとなっていることから、脂肪の嗜好性(口腔内刺激)がPOMCを介して代謝に影響を与えると考えられる。 そこで、脂肪を口腔内(脂肪を味わう)もしくは胃内(脂肪を飲み込む)にカニューレを通して投与し、呼気ガス分析によるエネルギー代謝の変化、体温変化、消化管ホルモン、血中エネルギー基質の変動を比較検討する。口腔内投与と胃内投与を比較することにより脂肪を口腔内で味わうことが代謝にどのような影響を与えるのかを明らかとする。また、POMCニューロンはβエンドルフィンだけではなく、メラノコルチン類も同時に分泌すると予測されるので、これらの阻害剤およびβエンドルフィン阻害剤を投与した際の代謝変化についても検討を行う。 βエンドルフィンニューロンがレプチンやインシュリンの標的であるならば、インシュリンやレプチンの作用が嗜好性によって変化する可能性が推測される。そこで脂肪摂取直後のマウスを用いてこれらのホルモンの生理的作用の変化ついても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に行う予定だった米国からのマウスの輸送が手続きの都合上間に合わず、27年度に繰り越して輸送をすることになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
米国から新しいトランスジェニックマウスの輸入諸費用に使用する。
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