研究課題
全身および各組織における分岐鎖アミノ酸代謝と肥満・肥満に伴う代謝異常症の関連性を明らかにするため、末梢組織における分岐鎖アミノ酸(BCAAs)代謝の初発酵素であるBCAT2の組織特異的欠損マウスの作成を行っている。平成26年度は、キメラマウスと野生型を交配させることによって得られたF1マウスをFLP発現マウスと交配させ、薬剤耐性マーカーであるNeomycinを除去したfloxヘテロマウスを得た。更にfloxヘテロマウスの交配により、floxホモマウスを得た。floxマウスと交配させるCreマウスについては、脂肪組織特異的に発現するadiponectinの遺伝子制御領域下でCreを発現させるadiponectin BAC Creドライバーマウスを導入した。脂肪組織機能とBCAAsを含むアミノ酸代謝の関連性について明らかにするため、肥満モデルマウスに脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγアゴニストを投与し、メタボローム解析を行っている。平成26年度は白色脂肪組織由来の代謝物変動について解析を行い、PPARγアゴニスト投与によって43種類の有意な代謝物変動が認められ、そのうち19種類の代謝物が同定された。同定された19種の代謝物のうち7代謝物がアミノ酸であったが、血中のメタボローム解析で変動が認められたBCAAsのロイシンは白色脂肪組織においては変動が認められず、他の組織の関与が考えられた。血液と白色脂肪組織ともにフェニルアラニンやヒスチジンにPPARγアゴニスト投与による有意な変動が認められた。このことより、PPARγアゴニスト投与によって白色脂肪細胞における芳香族アミノ酸代謝が変動しうることが示唆された。このことから、脂肪組織機能の変化によって全身アミノ酸代謝が調節されている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
組織特異的BCAT2欠損マウスの作成については、floxホモマウスが得られ、脂肪組織特異的Cre発現マウスの導入が完了したことで、白色脂肪組織特異的なBCAT2欠損マウスの作成準備が整ったため。また、肥満モデルマウスを用いたメタボローム解析により、脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであり、インスリン抵抗性改善作用を有するPPARγアゴニストの投与による血中および白色脂肪組織中の変動代謝物を明らかにした。変動が認められた代謝物中には多くのアミノ酸が認められたことから、PPARγアゴニスト投与がBCAAsを含む種々のアミノ酸代謝調節に関与していることが明らかとなった。以上の点から、脂肪組織機能の変化が肥満状態の全身および白色脂肪組織のアミノ酸代謝調節に関与している可能性を示唆する知見が得られたため。
脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝と肥満・肥満に伴う代謝異常症の関連性を明らかにするため、組織特異的BCAT2欠損マウスの作成を前年度に引き続いて行う。BCAT2 (mitcondrial branched chain aminotransferase)は末梢組織におけるBCAAs代謝の初発酵素であり、BCAAsはBCAT以下の一連の酵素反応によって、アシル-CoAへと代謝されていく。本研究課題では、Cre-loxPシステムを用いたBCAT2欠損マウスの作成を行っている。平成27年度は、昨年度までに得られたBCAT2のfloxマウスとadiponectin BAC Creドライバーマウスを交配させ、脂肪組織特異的なBCAT2欠損マウスを作成する予定である。脂肪組織特異的BCAT2欠損マウスを作製、確認できれば、このマウスを用いて全身エネルギー代謝調節における脂肪組織のBCAAs代謝の意義について検討を行っていく予定である。特に肥満時のエネルギー代謝破綻との関連性について検討を行うため、高脂肪食負荷時における表現型について検討を行う。表現型の変化が得られれば、各種網羅的解析手法を用い、その分子機構を明らかにしていく予定である。昨年度までに脂肪細胞のマスターレギュレーターであるPPARγ(peroxisome proliferators-activated protein γ)活性化剤投与時の血中代謝物変化についてメタボローム解析を行い、一部のBCAAsを含む数種類のアミノ酸の血中濃度が変化することを見出してきた。本現象について、培養脂肪細胞などを用い、PPARγによって制御される脂肪細胞機能とアミノ酸との関連性について検討していく予定である。
平成26年度までは科学研究費補助金の交付額をもって、研究計画に沿った実験を行うことができたが、最終年度である平成27年度も規模としてはこれまでの年度と同等規模の実験を行う予定である。その際に、学術研究助成基金助成金をもって、不足分を補填する計画であるため。
メタボローム解析や実験動物、培養細胞を用いた分子生物学的・生化学的解析など、比較的高額の資金を要する実験を今後も行っている予定であり、その実験に学術研究助成基金助成金を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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http://www.foodfunc.kais.kyoto-u.ac.jp/