研究概要 |
クロロフィル(Chl)蛍光は,光合成の主色素(Chla)から発せられる光であり,これを正確に計測することで光合成反応系の状態を非破壊かつ非接触でモニタリングできる。本研究では,明期定常状態にある植物葉を対象として,急激な減圧(0.1秒以内に0.5気圧以上)を行うことによって誘導されるChl蛍光強度の経時変化を解析する画期的な手法「減圧パルス―Chl蛍光計測法」により,光合成電子伝達系で伝達される電子のうちで,カルビン・ベンソン回路で利用されるものとWater-watercycleへ伝達されるものとの比率を連続的かつ簡便に測定する新たな測定法を開発する。具体的には,瞬時ガス(O2およびCO2)成分制御機能を付与した減圧パルス―Chl蛍光計測システムを作製し,既往の測定法との比較を行いながら,光合成電子伝達分配比測定のためのアルゴリズムを確立する。さらに,画像計測システムを作製し,同一葉面上での光合成電子伝達分配比の不均一分布の解析を行う。さらに,大型チャンバを用いて,光合成電子伝達系に変異を持つミュータントのスクリーニング等への利用の可能性を探る。 平成24年度は,ガス組成(CO2濃度)を変更可能な減圧パルス―Chl蛍光計測システムを作製した。 なお,Chl蛍光強度計測は画像計測によるものに加えて,PIW-Chl蛍光計測装置(Mini-PAM,WALZ,Germany)を用いて,より詳細なChl蛍光収率変化をモニタリングすることとした。本装置を用いて,CO2濃度を変化(400,600,1500,1200,1000,800,600,400,300,200,100,400μmol mo1-1の順)させながら,飽和パルス法によるΦPSII計測と減圧パルス―Chl蛍光計測を行った。なお,減圧パルスは各CO2濃度条件下において3分間隔て計3回付与した。また,光合成速度と蒸散速度についても並行して計測した。その結果,CO2濃度が光合成の律速要因となる条件下において,減圧パルス―Chl蛍光計測法で計測されるPeakheightにより光合成速度の簡便な計測ができることが確認された。
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