研究概要 |
本年は,顆粒膜細胞特異的Nrg1欠損マウスの解析を行い,産子数が野生型マウスと比較して有意に低下することを見いだした.この原因追求から,NRG1はEGF受容体によるCa2+上昇を制御する作用を持つこと,その結果Calpainの酵素活性を調節することを明らかとした.卵丘細胞におけるCalpainの機能について詳細に検討した結果,Calpain2が発現し,それがCa2+だけでなくERK1/2により活性制御されていること,活性化したCalpain 2はfocal adhesion componentを分解し,卵丘細胞の脱接着と誘走を引き起こし,細胞間にビアルロン酸を主成分とする細胞外マトリクスを蓄積させることが明らかとなった.ライディッヒ細胞特異的Nrg1欠損マウスでは,加齢に伴う精子形成不全が観察された.遺伝子欠損マウスと野生型マウスのライディッヒ細胞をサンプルとしたマイクロアレイ解析を行った結果,遺伝子欠損マウスではレチノイン酸代謝系の異常が生じ,精原細胞の生存性が低下することを見いだした.以上の結果から,Nrg1が雌雄共に繁殖性を制御する重要な因子であることが同定されたことから,ブタにおけるNrg1の発現,機能解析を試みた.本年は,雌個体におけるNrg1の発現解析を行った結果,受容体であるErbB3は卵胞発育期に顆粒膜細胞と卵丘細胞で発現し,Nrg1は排卵期に発現上昇することを見いだした.さらに,体外培養系を用いてErbB3がFSH刺激により発現誘導されること,NRG1添加がErbB3をリン酸化し,Erk1/2系を活性化すること,それが卵丘細胞の膨潤,卵成熟を制御することも明らかとなったことから,ブタにおいてもマウスと同様にNrg1の繁殖能力に果たす重要性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
早期生殖能力減退マウスであるNrg1遺伝子欠損マウスの解析を行い,その卵成熟および精子形成への役割を解明しつつある.さらに,ブタにおけるNRG1とその受容体の発現,機能解析も行い,卵成熟に果たす役割を明らかとしたことから,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
本年に明らかとしたNrg1欠損マウスにおける卵成熟および精子形成不全機構の詳細について,NRG1の標的遺伝子に着目し解析を行う.その結果から,標的遺伝子,Nrg1,受容体であるErbB3に関するSNPとブタの繁殖性との関係を解明する.
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