本研究は、短鎖RNA(miRNA)を腎臓病バイオマーカーとして獣医学に応用することを目的とする。平成24年度はマウス、25年度はイヌとネコの腎臓に発現するmiRNAを次世代シークエンス法で明らかにした。以上のデータを統合的に解析し、26年度はマウス糸球体で最も豊富に発現するmiR-26aに着目した。 miR-26aはマウスでは糸球体上皮細胞(ポドサイト)に強く発現し、イヌ、ネコの腎臓でも糸球体に強く発現する傾向にあった。ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、アザラシ、ニワトリの腎臓でも同様の傾向を得た。 病態時のmiR-26aを慢性腎臓病(CKD)モデルマウス、ループス腎炎およびIgA腎症患者のサンプルで精査した。CKDマウスの糸球体内miR-26a発現量は健常群よりも低く、ループス腎炎およびIgA腎症患者でも同様の傾向を得た。CKDマウスにおいて、糸球体内miR-26a発現量は尿中アルブミン/クレアチニン比と負の相関を、ポドサイト機能関連分子の発現量と正の相関を示した。近年、尿中miRNAは小胞(エクソソーム)に含まれることが示唆されている。各病態群の尿中エクソソーム内miR-26a量は健常群よりも高かった。 in vitro培養系で、マウス不死化ポドサイト株のmiR-26aの発現量は、メサンギウム細胞株や集合管上皮細胞株よりも高く、分化と共に発現が上昇した。ポドサイト株のmiR-26a発現量は、ポドサイト機能関連分子の発現量と正の相関を示し、薬物誘導性細胞傷害によって減少した。細胞傷害後、培養液中エクソソーム由来miR-26aは増加した。 以上、miR-26aは動物の糸球体に発現し、特にポドサイトの分化や細胞骨格を制御し、病態時に減少することを明らかにした。miR-26aは腎臓病のバイオマーカー候補であり、特に尿中エクソソームの評価が分子診断に繋がる可能性を示した。
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