研究課題/領域番号 |
24688034
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
一瀬 博文 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00432948)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シトクロムP450 / 異種発現 / タンパク質 |
研究概要 |
1.真核微生物シトクロムP450の異種発現系構築 木材不朽担子菌 (Phanerochaete chrysosporium, Postia placenta)に由来する305種類のP450のうち、担子菌に由来する27種類の分子種が大腸菌細胞内に高発現することが前年度までに明らかになった。本年度は、野生型配列では発現困難な278分子種の異種発現を達成することを目的として、大腸菌における発現が確認されているCYP5144C1およびCYP5139D7v1に由来するN末端配列とのキメラ体を作成して異種発現の可否を追跡した。網羅的検討の結果、CYP5144C1およびCYP5139D7v1との平易なキメラ化により、58種類のP450を高発現させることに成功した。本年度得られた成果を基に、動物・植物・微生物など多岐にわたるP450異種高発現が可能となり、基礎・応用研究の発展に繋がる。 2. 真核微生物シトクロムP450の機能解析 大腸菌細胞内に異種高発現したP450の精製条件について検討を加え、膜結合型P450の可溶化に適した界面活性剤を見出した。本年度までに、10種類のP450をアフィニティークロマトグラフィーにより精製している。また、一部のP450についてはin vitroでの酵素反応にも精製しており、本成果を基に機能解析・構造解析が促進されることも期待される。 3.真核微生物シトクロムP450の機能強化 麹菌(Aspergillus oryzae)に由来するP450の中からイソフラボンに活性を示す分子種の機能改変を試みた。ランダムミューテーションにより変異を導入したP450を酵母に異種発現させたところ、酵母に由来する代謝物を基質として新規化合物を蓄積させる分子種が得られた。現在、新規化合物の構造決定を急ぐと共に、大腸菌異種発現技術を応用した希少天然物生産への可能性についても検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトの最終到達目標は、全ての真核微生物シトクロムP450を高発現するライブラリーを構築するとともに、機能強化P450を創出する点に有る。発現系構築へ向けた研究計画として、ステップ1:木材腐朽担子菌および麹菌に由来する425種のP450の野生型配列を用いた発現追跡、ステップ2:発現に成功した分子種とのキメラ化による発現系の改良、ステップ3:異種発現を可能とする配列のデザイン、の三段階で達成する。既に、一斉スクリーニングは終了しており、現在は発現系の改良を試みている段階である。現在までに、異種発現に適したN末端アミノ酸配列を決定できたことに加え、酵素の精製に必要不可欠な可溶化条件の決定にも成功しており、実際に一部の酵素は精製として獲得することに成功している。精製酵素の獲得は、構造解析等への発展研究にも大きなアドバンテージとなる。次年度以降の応用研究に向けた基礎データは概ね揃っており、本年度終了時点での到達度は概ね順調と考えている。さらに、本研究の成果は、多種多様な生物のP450異種発現を可能とする普遍技術として大きな意義を持つ。本研究の成果を活用することで研究目標に大きく近づくとともに、多くの研究者に新しい異種発現技術の提案ができると考えている。また、P450機能強化も順調に進行している。ランダムミューテーションによる変異導入から、イソフラボン変換酵素の機能改変に成功した。機能改変P450は酵母内在性化合物を基質として新規化合物を与えるユニークな特性をもつことから、本酵素を活用した希少天然化合物の合成も促進されると期待している。現在、テルペノイドに活性を示すP450の機能改変についても準備を進めており、次年度内には良好な結果が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策1:申請者が保有する425種類の真核微生物由来P450のN末端配列を精査して、大腸菌発現系に最も適したアミノ酸配列を決定する。また、配列比較およびタンパク質構造予測を行い、異種発現の可否を決定づける要因について検討する。本成果を基に、N末端配列のデザインが可能となり、種々のP450分子種が異種高発現したタンパク質ライブラリが完成される。また、精製可能な分子種については高度に精製して、機能解析および構造解析に備える。本研究の応用展開として、P450の「配列-構造-機能」の統合的理解へむけた網羅的構造解析への基盤材料となることを期待している。 推進方策2:イソフラボン変換酵素に変異を導入して得られた機能改変P450の反応特性について解析を行う。また、変異導入部位と酵素活性の相関を明らかとし、効率的な酵素機能改変技術の提案を目指す。また、テルペノイドに活性を示すP450の機能改変についても変異体作成を進め、「配列-構造-機能」の統合理解を目指す。 課題等:ヘムタンパク質であるP450を異種高発現するためには、ヘム前駆体であるアミノレブリン酸を培地中に添加することが必要であった。全ての生物がアミノレブリン酸合成能を有しているにも関わらず、外来からの添加が必要であることは、宿主細胞のヘム合成能がP450の異種高発現を支えるレベルではないことを意味している。新たな課題として、宿主細胞のヘム合成経路の活性化についても検討していく予定である。
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