研究課題
本研究では、経口投与された薬物のうち、循環血中に到達する薬物の割合を示すバイオアベイラビリティを精度よく予測するために、医薬品の代謝・輸送に関わる分子の機能に根ざした定量的な予測系を肝臓・消化管の両方で構築することを目的としている。本年度は、肝臓については、これまでアニオン系薬物の取り込みは、OATP類をはじめ分子機構が明らかであるが、一方、カチオン系薬物の取り込み機構については、あまり解析されてこなかった。そこで、トリプタン系薬物やβブロッカー等の肝取り込み機構の解明に向けて、in vitro実験を実施したところ、トリプタン系薬物については、肝細胞への取り込みはOCT1の良好な基質であるtetraethylammoniumにより良好に阻害された。また、OCT1/OCT2 double knockout miceを用いたin vivoでの検討において、OCT1の肝取り込みに対する寄与が比較的大きなトリプタン系薬物については、有意に血漿中濃度の上昇がみられたことから、OCT1がトリプタン系薬物の肝クリアランスに寄与することが示唆された。また、消化管については、消化管での吸収抑制機構としてのCYP3A4, P-gpは、共に異なった消化管中での分布を示すことが知られている (CYP3A4: 上部>下部、P-gp: 上部<下部)。この偏った分布が、生理学的な異物の吸収抑制の効率の最大化に寄与しているか否かについて、数理モデルを用いた検討を実施した。その結果、CYP3A4が上部に多い方が、消化管吸収率は最低限に保たれることが示され、さらにその条件下でP-gpが下部に多い方が、吸収率の抑制効率がいいことが示唆される結果を得た。このことより、生理的な消化管におけるCYP3A4, P-gpの偏在には異物解毒における一定の意味があることを見出すことができた。
2: おおむね順調に進展している
実験を伴う部分の条件の確定、最後の統合のプロセスで必須な数理モデルによる解析など、すべての研究に必要なパーツについて一通り確立してきており、最終年度の予測へ向けた準備が着々と進んでいるため。
予定通り、最終年度においては、ヒト・サル消化管検体を用いた消化管吸収の予測系の確率、消化管吸収モデルの構築および遺伝子多型試験や薬物間相互作用試験の臨床データとの対応による妥当性の評価、それらを統合して、バイオアベイラビリティーの予測へとつなげる最終的な目標へ向かった研究を進めていく予定である。
ヒト・サル検体の入手が、先方機関との調整の関係で予定より少し遅くなったこと、また、Ussing chamber実験系の確立が思いのほか効率よく進み、試験化合物を増やして、より一般性を持たせる形で、次年度の検討にあてるほうが、研究成果として効率的であると考えたため。予定よりも解析対象化合物を広げることにより、より予測精度の妥当性評価について一般性を持たせ充実させることにあてる。それ以外の研究計画については、大きな変更はなく、結果としては、当初の計画より、より充実した成果につながる支出計画を予定している。
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