研究課題/領域番号 |
24689029
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小段 篤史 京都大学, 物質‐細胞統合システム拠点, 助教 (80360543)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体分子 / 蛋白質 / 薬学 / 癌 |
研究概要 |
本研究対象の好熱性真核細胞Cyanidioschyzon merolae由来CmABCB1は、ヒトと良く似た基質特異性を示す多剤排出型ABC輸送体(P糖タンパク質)であり、しかも、熱安定性が高いことから高分解能での立体構造解析が期待できる。昨年度までに、CmABCB1の2.6オングストローム分解能での「内向き型構造」決定に成功していた。本年度、CmABCB1を標的として合成したペプチドaCAPとCmABCB1との複合体結晶の2.4オングストローム分解能での構造決定に成功した。その結果、aCAPは予想していた基質認識部位とは異なり、分子の外側から「かすがい」を打つように結合しており、それにより「内向き型構造」が従来よりもさらに安定化していることが判明した。さらに、決定した構造をもとに、基質認識に関わると予測されるアミノ酸に変異を加え、それらの変異体の機能解析を実施することによって、基質認識にとって重要なアミノ酸残基をいくつか同定することに成功した。これにより、P糖タンパク質がくすりを細胞膜中から蛋白質内に取り込む入口、くすりの認識に関わる可能性のあるアミノ酸残基、P糖タンパク質がどのように動いてくすりを細胞外へ排出するかが、構造に基づいて初めて明らかとなった。本成果をさらに発展させることで、体内動態や脳内移行に優れたくすりの開発につながると期待され、論文化(Kodan et al., PNAS, 2014)およびプレスリリースによる情報公開を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真核生物ABC輸送体(P糖蛋白質ホモログ)の「内向型状態」構造については、2.4 A分解能での構造決定に成功した(Kodan et al., PNAS 2014)。一方、「外向型状態」構造については、「内向型状態」構造を不安定化する変異体を作成し結晶化条件の検討を実施したところ、高品位な結晶が得られており、構造解析の目処がたったため。
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今後の研究の推進方策 |
真核生物ABC輸送体(P糖蛋白質ホモログ)の「外向型状態」構造を決定する。外向型の候補変異体についてはすでに目処がたっている。今後、当変異体の結晶化条件の最適化、および重原子同型置換法による位相決定を実施し、「外向型状態」構造を高分解能で精密に構造決定する予定である。 また、熱安定性を向上させるための遺伝子工学的な改変を加えた真核生物(ほ乳類、ヒトを含む)のABC輸送体の結晶化スクリーニングを実施し、結晶化能の向上を図る。結晶が得られたら分解能を向上させるため、抗体の抗原結合部位 (Fab断片) との複合体の結晶化、さらに、阻害剤または基質アナログとの複合体の結晶化を試みる。上記の計画を実施したにもかかわらず、高分解能を与える結晶が得られなかった場合には、ロドプシンで成功したことで知られるCubic lipidic phase法 [Landau, E.M. 他1名, Proc Natl Acad Sci USA 93 14532-35.(1996)]により、ABC輸送体の結晶化を検討する予定である。結晶が得られ次第、大型放射光施設SPring-8のシンクロトロン放射光を用いてX線回折実験を実施する。結晶化条件の最適化を繰り返し、分解能が3オングストロームを越えたら、立体構造の決定を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度、当予算にて作成予定であった真核生物ABC輸送体(P糖蛋白質ホモログ)の変異体に関し、部局における他の競争的資金により作成可能となったため、当該助成金が生じた。 今後、真核生物 (ほ乳類、ヒトを含む)のABC輸送体の構造決定に向けて、Cubic lipidic phase法の適用も視野に入れつつ、さらに条件検討を行う必要性が新たに生じたため、これに当該助成金を使用する計画である。
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