癌予防効果を持つサイトカインであるTRAILは、受容体であるDR5を発現している癌細胞に対して特異的にアポトーシスを誘導する。しかしながら、多くの癌細胞ではTRAILの発現が抑制されていることが癌予防における大きな障害となっている。そこで今回、TRAILの発現を促進させるmicroRNAに着目した。 研究計画段階では、既報を参考に、TRAILの発現を促進させるmicroRNAとして「miR-145」に着目した。しかしながら、平成24年度中に行った実験の結果、miR-145の過剰発現によるTRAIL発現上昇は確認されなかったため、研究計画を修正し、癌抑制microRNAの中から、TRAILの発現を誘導するmicroRNAの探索に着手した。 その成果として、平成24年度新規TRAIL発現誘導microRNAとして、miR-34aを見出すことができた。癌抑制microRNAであるmiR-34aは、正常細胞に比して多くの癌細胞では発現量が低下していることが報告されている。miR-34aによって、TRAILの発現が正に制御されているのであれば、癌細胞におけるTRAILの発現抑制は、このmiR-34aの発現が抑制されていることに起因するとも考えられる。 平成27年度は、miR-34aによるTRAIL発現調節機構の詳細な解析に加え、既報により、一部の癌細胞においてTRAILの発現誘導効果が報告されているHDAC阻害剤に着目した。本研究の結果、代表的HDAC阻害剤である酪酸、SAHAがmiR-34aの発現を顕著に誘導し、TRAILの発現誘導にも一部寄与していることを見出した。以上をまとめ、現在、論文化を進めている段階である。さらに、糖尿病治療薬であるメトホルミンが癌促進型microRNAの一種であるmiR-221の発現を抑制することにより、p27の発現を回復させ、その結果、細胞周期がG1期で停止し、癌細胞の増殖抑制に寄与していることを見出し、報告した。最終目標である「癌の分子標的併用予防法」においても、重要な候補となりうると考えられる。
|