研究課題/領域番号 |
24689034
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 崇之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (70332450)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感染症 / ゲノム / 衛生 / 社会医学 / 分子疫学 |
研究概要 |
近年、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の遺伝的多様性と分離傾向には地域性があり、世界各地あるいは地域人種・民族への定着と適応が進んでいる可能性が指摘されている。日本を含む東アジア地域では「北京株」と呼ばれる系統が優先しており、我が国ではその中でも「祖先型北京株」が分離株全体の70-80%を占めている。本課題では、このうち日本で分離率が高いSTK (G3) 群、ST3 (G4) 群に着目する。これらの系統群は、我が国では祖先型北京株の約半数以上を占める一方、他国での分離例は少なく、日本での定着、適応進化、過去の流行など、様々な理由が推定される。 本課題では、これらの系統群に属する臨床分離株を対象とし、次世代シーケンサー(NGS)よって得られた配列情報から遺伝的特異性、共通性、多様性を分析する。本年度は研究協力者との調整を終え、これまでの関西地域における分離株解析に加え、東北、関東、九州、沖縄由来の菌株DNAの分与を受けた。さらに、新学術領域「ゲノム支援」の協力を得てそれらのショートリードを取得した。同時に、STK, ST3群を含めた11群(15株)で454シーケンサーを用いたメイトペアリードを取得し、アセンブルによるパラログ遺伝子群の比較解析に糸口を得た。パラログ遺伝子群(PE/PPEファミリー遺伝子)は多様性が高く、宿主の免疫応答との相互作用に密接に関連すると考えられている。結核菌の病原性・宿主適応に強く関係するとされていることから、本課題において重要な研究対象となるものである。 ゲノムデータを結核公衆衛生への応用をするためには、患者の実地疫学情報や既存の遺伝型別に基づく菌株の異同判定を補完していくことが重要である。本年度は、そうした型別解析や技術情報を報告して成果とした他、比較ゲノムデータそのものについても投稿準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本各地からの臨床分離株を収集することができたため、本課題で必要となるDNA配列情報をほぼ全て取得することができた。ゲノム支援によって、当初予定していたショートリード以外の配列データも得られたので、次年度はこれらを利用してパラログ遺伝子群の解析に注力することができる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本年度取得した日本各地由来株のゲノムデータについて地域ごとに相同性比較を行い、地域差が認められるかどうかを検討する。これにより、日本国内での結核菌の伝播、拡散が過去どのようにして進んできたのかが推定できる。パラログ遺伝子の解析では、複数のプラットフォームによるリードデータを活用するためにバイオインフォマティクスの重要性が高まった。そこで、まず臨床株間でオーソログ関係にあるPE/PPE遺伝子をリスト化し、それらの配列情報をショートリードから抽出する手法を検討し、その精度をサンガー法による配列解析と比較して確かめる。さらに、それらの配列に基づいて分子系統解析を行い、変異速度や淘汰圧に関する分析を行い、各遺伝子においてどのように変異が蓄積されているのかを調べる。分子疫学への応用として、そうした変異情報を遺伝マーカーとすることが菌株の異同判定に役立つ可能性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は結核菌株ゲノムデータ取得に際し、科研費新学術領域研究『生命科学系3分野支援活動』「ゲノム支援」に申請、採択されたため、それに充てる予定であった民間企業への委託を実施することなく目的のデータを得ることができた。使用を予定していた経費は研究補助員の雇用、大規模シーケンスデータの情報処理ソフト購入などに活用したが、次年度への差額も発生している状況である。 次年度も引き続き研究補助員を雇用し、円滑な研究体制の確立、推進を目指す。また、可能であれば、バイオインフォマティクス環境の拡充を目的としてワークステーションを購入する。
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