研究概要 |
がん幹細胞はがんの治療抵抗性や再発など,がんの生命予後を規定する重要な概念であるが,その存在は未だ論争中である.我々は,細胞株を用いた研究や単一細胞の異種移植に依存した従来の研究から脱却し,患者由来の大腸がんの分子遺伝学的な細胞系譜解析を行い,より臨床に則したがん幹細胞の同定を行う研究を考案した.細胞系譜解析のため,「平成24年度研究実施計画」では,ヒト大腸癌幹細胞培養を利用し,遺伝子相同組換による遺伝子操作システムを確立すると記載した.我々は,安定的な患者由来大腸がん培養を可能にするオルガノイド培養を確立した.また,LGR5の遺伝子座を標的としたゲノム編集のため,配列特異的なTALE nuclease(TALEN)を作製し,細胞株に対してTALENはLGR5遺伝子座の標的配列を切断できることを確認した.ドナーレポーターの遺伝子座へのノックイン遺伝子相同組換えを確認した.さらに,患者由来オルガノイドによっても,TALENによるゲノム編集技術が確立できた.今後,本技術を用いてノックインレポーターによる遺伝子の可視化,並びにがん関連遺伝子の遺伝子破壊,さらにはゲノム編集されたオルガノイドの幹細胞機能解析を行い,新しい治療標的の創出に結び付けたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒト培養腸管上皮細胞から作製したオルガノイドのゲノム編集技術の確立は,ヒト腸管上皮細胞や大腸がん細胞の遺伝子機能解析を施行する上で,極めて重要な技術となる.本技術の確立は海外でも多くの研究者が挑戦しているが,成功していない.今回,1年以内に本技術が確立できたことは,研究計画を進める上で,大きなアドバンテージとなる.
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今後の研究の推進方策 |
オルガノイドにおけるゲノム編集技術をさらに応用し,標的とする遺伝子の数細胞の種類を増やしていく.オルガノイドゲノム編集技術は,国際的にみても達成されていない重要な技術であり,集中的な資金投資により,飛躍的な成果が期待できる.
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり,消耗品購入に充てる予定である.平成25年度では当初の研究計画に沿って,研究を遂行していく.本研究はヒト臨床検体を用いているため,倫理審査書類の作製,協力患者の情報管理,ゲノム倫理指針など,事務的処理が多いため,専属の事務員の雇用が必要である.
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