研究課題
平成25年度は、防護活性評価を進めていた二座配位性の亜鉛キレート化剤のうち,細胞周期の停止とアポトーシスの抑制に関わるp53標的遺伝子p21の転写を亢進させる8-キノリノール誘導体KH-3(5-chloro-8-quinolinol)に注目し,その放射線防護効果を主に動物実験で検討した.全身照射マウスに対する本化合物の防護効果は,7.5 Gyの骨髄死相当線量で一部のマウスを救命する程度の限られた効果であったが,p21の発現を亢進させるその薬効はp53の一部機能を強化しているものと考えられた.放射線による急性障害のメカニズムの詳細は未だ未解明な点も多いが,腸管への影響に焦点を絞ることを目的とし,マウス前脚部の骨髄を鉛で遮蔽防護することによって骨髄死を回避する亜全身照射(SBI)による腸管障害解析モデルの解析から,腸管障害の防護にはp53機能の強化が有効であることがJacksらによって示唆されていた(Science 327, 593-596, 2010).この先行研究にもとづき,本研究でもKH-3の放射線防護効果を検討したところ,SBIマウス腸死に対しKH-3は顕著な防護効果を示し,そのDRF(線量減少比)は1.3を示した(投稿準備中).平成25年度当初に計画していた他の3化合物(キノリン誘導体)についても,マウス全身照射試験によって放射線防護活性を評価検討した.その結果,いずれの化合物も8 Gyの骨髄死相当線量を照射したマウスに対して有意な防護効果を示した.また,3化合物の1つについては細胞レベルのメカニズム解析を進め,その効果がp53特異的であり,核でなく細胞質のp53分布量を低下させる,これまでにないタイプのp53抑制効果を示す化合物であることが判明した(投稿準備中).今後はこの3化合物についてもSBIマウスの放射線防護効果を検討し,腸管防護活性の高い化合物の探索を進める予定である.
2: おおむね順調に進展している
平成25年度当初の計画は,概ね実行された.
p53阻害性のハイブリッド化合物の放射線細胞死抑制効果の検討については,安定した放射線細胞死抑制効果が得られなかったため,本化合物の研究は中止した.今後は合成展開されたキノリン誘導体の解析を中心に進めたい.また,SBIマウス実験に関しては遮蔽固定の際に麻酔が必要となったため,単回投与,単回照射実験を主として進め,反復照射実験については,反復投与による副作用がきわめて低いことが確認された化合物にとどめる予定である.検討する化合物については,新たな研究結果から得られた候補化合物を複数追加して検討したい。
次年度使用額4,062円は,凍結細胞サンプル維持管理のための3月分液体窒素補充代.次年度使用額4,062円は,平成26年4月にただちに全額支払い済み.平成26年度助成金は物品費として使用する.
すべて 2013 その他
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Oncotarget
巻: 4 ページ: 2439-2450