研究課題
本研究目的を達成するためには、動脈疾患に対して安定にドラッグを運搬するキャリアの開発ならびに動脈疾患に対するナノDDSの集積メカニズムを理解することが重要である。昨年度までに動脈瘤に対するナノDDSの集積がサイズ依存的に変化することが判明しており、特に100nmのキャリアが疾患部位へ特異的に集積・滞留することが明らかとなっていた。この知見に基づき、平成25年度は粒径を100nmに制御したドラッグ内包キャリアを新たに合成し、in vitroならびにin vivoでの効果を確認した。中膜平滑筋細胞株SMCならびに正常ヒト臍帯静脈内皮細胞株HUVECを用いた毒性試験では、コントロールと比較して約100倍の活性が確認された。次にエラスターゼによって誘起させたラット腹部大動脈瘤モデルに対してこれらのミセルを投与した結果、ミセル投与群は動脈瘤の形成を有意に抑制することが確認された。本年度は動脈瘤の他にも、新たに内膜肥厚を対象としたDDSについても研究を展開した。平成24年度の検討で使用した粒径の異なるEDC架橋ポリイオンコンプレックス(PICsome)をラットの内膜肥厚モデルに投与した結果、100nm以下の小さい粒子が特異的に集積することが確認された。このことは、同じ血管疾患であっても動脈溜と内膜肥厚では集積する粒子のサイズが異なることを示している。すなわち、動脈疾患を標的としたDDSにおいては、キャリアのサイズを制御することのみで疾患選択的なデリバリーが実行可能であることを示唆している。今後は、動脈瘤への治療効果について作用機序を勘案しながら検討を継続するとともに、小さいサイズのキャリアを用いた内膜肥厚の治療効果についても検討する。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究に於いては、これまでに動脈瘤に対する粒子のサイズ依存的な集積が確認されている。今回、新たに内膜肥厚への集積についてのサイズ効果、ただし100nm以下の小さいサイズでの選択的な集積を確認できた。これは、単純なサイズコントロールによって疾患選択的なドラッグデリバリーが可能であることを示唆する興味深い発見である。
昨年度に引き続き、ドラッグ内包キャリアを用いた生物学的評価、すなわちキャリアの安定性、毒性、細胞内ならびに体内動態に関して、in vitroとin vivoで詳細に検討する。最終的には最適な機能を備えたナノDDSキャリアを作製して評価を行う。
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Journal of the American Chemical Society
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DOI: 10.1021/ja406406h
ACS Nano
巻: 7 ページ: 8583-8592
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http://www.bmw.t.u-tokyo.ac.jp/