研究課題
免疫系は「自己」・「非自己」を識別するシステムであり、「自己」に対する免疫寛容を維持しつつ、「非自己」を排除する。免疫寛容が破綻すると、免疫細胞は自己組織を攻撃するようになり、自己免疫疾患の発症を誘起する。この発症に深く関与している免疫細胞画分の一つが、制御性T細胞(Treg)である。Tregは、自己反応性T細胞を抑制的に制御する機能を有した細胞集団であり、このTregの機能によって免疫寛容が維持されている。しかしながら、Tregに機能不全が生じると、免疫寛容の破綻を招き、様々な自己免疫疾患が発症する。そのため、自己免疫疾患に対して、Tregの機能を回復あるいは増強するという治療戦略は、非常に有効であると考えられている。本研究において申請者は、マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析、および質量分析を用いたプロテオーム解析を駆使した、「多層的オミックス解析」によって、Tregの機能不全の原因となる分子機構を理解し、さらに治療標的となる分子を同定することを目指す。申請者はこれまでに、当教室で作製したシェーグレン症候群モデルマウスを用いて、Tregの機能解析を行った結果、疾患モデルマウスではTregの細胞増殖能および分化能が抑制されていることを明らかにした。また、健常マウスおよび疾患モデルマウスのTreg間における遺伝子発現の相違を網羅的に解析した結果、複数の遺伝子について5倍以上の大きな発現の差が認められた。今年度は疾患モデルマウスと健常マウスの、Tregを含むCD4陽性T細胞のタンパク質発現の相違について質量分析解析を行った。現在詳細を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した当初の計画通り、健常マウスおよび疾患モデルマウスのTreg間における遺伝子発現の相違をマイクロアレイ法により網羅的に解析することができた。今後は疾患モデルマウスと健常マウスのTreg間における酸化修飾の違いについて、定量的プロテオーム解析を行う予定であるが、順調に進まない場合を想定し、今年度はTregを含めたCD4陽性T細胞全体のプロテオーム解析を疾患モデルマウスと健常マウスについて行った。
今年度までに、疾患モデルマウスと健常マウスのTreg間での遺伝子発現の違いをマイクロアレイ法により網羅的に解析し(トランスクリプトーム解析)、さらに、Tregを含めたCD4陽性T細胞全体のプロテオーム解析を両マウスについて行った。そこで、来年度以降は以下のような推進方策を行う。1)疾患モデルマウスと健常マウスのTreg間における酸化修飾の違いについて、定量的プロテオーム解析を行う。2)双方の網羅的解析から得られた、原因候補遺伝子あるいはタンパク質について、遺伝子ノックダウン解析やノックアウトマウスの作製などにより病態への影響を検証する。3)臨床サンプルを用いて、動物モデルで得られた結果が実際の患者に反映されていることを確認する。また、酸化修飾の違いについての定量的プロテオーム解析が難航した場合を想定し、リン酸化プロテオーム解析も並行して行う予定である。得られた結果についてはとりまとめを行い、成果を発表する。
Tregの機能解析の実験系を当初の予定していた系から別の系に変更したため、若干の繰越金が生じた。
申請研究費は、質量分析関連試薬や疾患モデルマウスの維持・管理費、その他抗体や培養用品の購入に用いる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件)
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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