研究概要 |
歯科における2大疾患の一つであるう蝕は,う蝕病原細菌により象牙質・歯髄複合体が損なわれる疾病である。う蝕により失われた象牙質・歯髄複合体の回復を目指した薬剤を用いての治療法の開発は,多くの研究グループのもとで行われてきた。本申請課題は,薬剤ではなく,未分化間葉系幹細胞を用いて象牙質・歯髄複合体の回復を目指すという新たな治療法の確立を目標にしている。具体的には,未だ単離に成功していない未分化間葉系幹細胞の単離法の開発と遺伝子工学的な手法による未分化間葉系幹細胞の作成を目指し,象牙質・歯髄複合体再生治療につながる基盤的な研究を行う。平成24年度は,新規幹細胞集団(lin-BMSC)のプロファイリングとして,in vivoにおける硬組織再生能についての評価として移植実験を行った。C57BL6/Jから調整した様々な細胞数(1.0x10^5個,2.5x10^5個,7.5x10^5個,1.0x10^6個,1.5x10^6個,2.0x10^6個)の新規細胞集団をICR nudeマウスに移入する。約8週後に移植片を摘出しmicro-CTにて硬組織量を計測した。移植細胞数と硬組織産生量は,正の強い相関関係が認められた(r=0.97)。新規幹細胞集団(lin-BMSC)により再生する硬組織は、移植する細胞数と相関することが明らかとなった。また一方で,未分化間葉系幹細胞を維持もしくは分化を誘導するシグナル伝達経路についても検索を行った。我々は,マウスES細胞(Embryonic Stem Cell)を未分化な状態に維持するのに必要な因子として知られているLeukemia Inhibitory Factor(LIF)に着目し,解析を行った。骨芽細胞分化誘導培地中で3週間培養したのちALP染色およびvon Kossa染色を行い,CFU-0数を計測し,石灰化能を評価したところ,LIFを含む骨芽細胞分化誘導培地にて培養した骨髄ストローマ細胞のCFU-0数は,LIFを含まない骨芽細胞分化誘導培地にて培養した骨髄ストローマ細胞のCFU-0数に対して有意に減少していた。以上の結果からLIFは骨芽細胞への分化および石灰化を抑制することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規幹細胞集団(lin-BMSC)のin vivoにおけるプロファイリングについての研究成果は,国際的な学術雑誌に掲載された。また,未分化間葉系幹細胞を維持もしくは分化を誘導するシグナル伝達経路の研究についても国際学会および国内学会にてその研究経過を報告しており,おおむね順調に進展している。
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