研究課題/領域番号 |
24700005
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
ルガル フランソワ 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (50584299)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子計算 / アルゴリズム / 代数問題 |
研究概要 |
本研究の目的は、代数問題を解くための新しいアプローチを開発することである。24年度は以下の3つの柱でこの研究を推進し、成果をあげた。 (1)ブール行列の積を計算する量子アルゴリズムの構築:数学や計算機科学において極めて重要でありながら、行列積を求める問題の計算量が未だ明らかになっていない。24年度はスペシャルケースであるブール行列に着目し、この問題の計算量の究明を目指した。先行研究は基本的に質問計算量の枠組みでこの問題を扱っていたのに対し、時間計算量の枠組みでも従来のアルゴリズムより高速な量子アルゴリズムの構築に成功した。 (2)長方形行列積に対する古典アルゴリズム:(1)の量子アルゴリズムの研究を通じて獲得した洞察を活かし、長方形行列積に対する新しい古典アルゴリズムを構築することに成功した。1997年のCoppersmithによるアルゴリズム以来、15ぶりの新しいアルゴリズムである。また、この成果の応用にも着目して、全点対最短経路問題をはじめとする様々なグラフ問題に対して従来のアルゴリズムより速いアルゴリズムを構築することも可能にした。 (3)量子対話型証明系の計算量の究明:量子プロトコルの中で代数的な要素を特に備えている量子対話型証明系というプロトコルに関する研究を推進した。量子対話型証明系の計算量理論の中核になっているQMA=QMA_1問題(任意のプロトコルを片側誤りプトロコルに変換できるかという問題)に特に着目し、プロトコルのクラスを限定することによってこの問題の部分的解決に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の目標にしていた(1)ブール行列の積を計算する量子アルゴリズムの研究と(2)体上の行列の積を計算する古典アルゴリズムの研究は計画通りに進んでおり、この二つの項目に関して従来のアルゴリズムより高速なアルゴリズムを構築することに成功した。また、全点対最短経路問題をはじめとするグラフ問題の解決や量子対話型証明系の計算量の究明に対する新しいアプローチの提示にも計画通りに成功した。よって25年度以降の目標にしている他のグラフ理論と計算量理論の諸問題への応用に取り組むための準備が整えられたので、研究の推進は順調に進展していると考えている。 なお、今まで得られた成果を国際会議などで発表することによって、本研究の結果の周知を始めた。
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今後の研究の推進方策 |
24年度に得られた成果に基づき、研究の対象を拡張していく。特に以下の3つの柱で研究を推進していく予定である。 (1)行列積に対するアルゴリズムの研究:今まで主に実数行列など環上の行列を扱って来たのに対し、25年度はグラフの距離行列など一般の半環上の行列にも着目する。この枠組みでも、従来のアルゴリズムより高速な量子アルゴリズムの構築を目指す。また、行列積の計算量の下限も考慮し、この問題の計算の複雑さを究明していく予定である。 (2)群同形性判定問題に対するアルゴリズムの開発:以前私が得た群同形性判定問題に対する古典アルゴリズムを量子コンピュータ向けに拡張して、量子コンピュータの優位性を確立することを目指す。量子計算の能力の新たな面を明らかにするとともに、古典アルゴリズムの開発も目指す。尚、環上の同形性判定問題や行列式を計算する問題など、群同形性判定問題以外の代数問題も対象とする。 (3)他分野の諸問題に対するアルゴリズムの構築:平成25年度からは、代数的な構造が明らかでないグラフ問題や組み合わせ問題などに対するアルゴリズムの研究も推進する予定である。代数的な構造を特定し、提案したアイデアを適応することによってこういった問題の計算量の究明を目指す。特に、量子情報理論的な観点を導入することによって、量子対話型証明をはじめ、計算量理論や暗号理 論などに本研究課題のアプローチを発展していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、24年度中に得られた成果を確実に拡大していくために、計算環境をより充実する必要があるので、高機能の計算機と数値計算ソフトウェアを導入する予定である。それで演算能力を最大の状態に整えて、代数的な構造が明らかでないグラフ問題や組み合わせ問題の構造を特定し、新しいアルゴリズムの構築を目指す。また、国内外の研究者との研究打ち合わせのために研究費を旅費にもあて、国内・国際会議で発表するなど、本研究課題で得られた成果を広く公開していく予定である。
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