研究課題/領域番号 |
24700005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
ルガル フランソワ 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (50584299)
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キーワード | 量子アルゴリズム / 代数問題 |
研究概要 |
本研究の目的は、代数問題を解くための新しいアプローチを開発することである。25年度は以下の3つの柱でこの研究を推進し、成果をあげた。 (1) 行列積に対する量子アルゴリズムの研究:今まで主に実数行列など環上の行列を扱ってきたのに対し、25年度はグラフの距離行列など一般の半環上の行列にも着目し、従来のアルゴリズムより高速な量子アルゴリズムをこの枠組みでも構築することに成功した。そして、この成果の応用にも着目し、全点対最短経路問題をはじめとする様々なグラフ問題に対して既存のアルゴリズムより速いアルゴリズムを構築することも可能にした。 (2) 正方形行列積に対する古典アルゴリズム:24年度の長方形行列積の研究を通じて獲得した知見を活かし、正方形行列積の研究を推進した。正方形行列積を計算する問題は、数学や計算機科学において極めて重要な問題であり、広く研究されてきた。ここで、量子計算に触発された新しいアプローチを提案し、体上の正方形行列の積を従来の方法より高速に求める古典アルゴリズムの構築に成功した。 (3) 量子対話型証明系の計算量の究明:量子プロトコルの中で代数的な要素を特に備えている量子対話型証明系というプロトコルに関する研究を推進した。この枠組みで、検証者が証明者と量子資源(量子もつれ状態)を共有することも可能としたモデル「一般化量子 Arthur-Merlin 証明」を定義し、そのモデルの様々な性質を明らかにすることに成功し、その量子プロトコルの計算能力の上限と下限を求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度の目標にしていた(1)半環上の行列の積を計算する量子アルゴリズムの研究と(2)体上の正方形行列の積を計算する古典アルゴリズムの研究は計画通りに進んでおり、この二つの項目に関して従来のアルゴリズムより高速なアルゴリズムを構築することに成功した。また、量子対話型証明系の計算量の究明に対する新しいアプローチの提示にも計画通りに成功している。よって26年度以降に目標としている他のグラフ理論と計算量理論の諸問題への応用に取り組むための準備が整えられたので、研究の推進は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に得られた成果に基づき、研究の対象を拡張していく。特に以下の3つの柱で研究を推進していく予定である。 (1) グラフ問題に対する量子アルゴリズムの研究:今まで様々な行列を効率良く計算する量子アルゴリズムを開発してきた。次はその量子アルゴリズムを(グラフの三角形発見問題など)グラフ理論の諸問題への適応を目指す。また、その代数的なアプローチの他に、量子ウォークという組み合わせ的な手法を用いたグラフ問題に対する量子アルゴリズの開発も目標とする。 (2) 正方形行列積に対する古典アルゴリズムの研究:25年度に提示したアプローチの拡張を行い、古典アルゴリズムの計算時間の更なる改良を目標とする。そのアプローチの限界も追究していく予定である。また、他の量子計算から触発された方法がないかも調べていく。 (3) 量子対話型証明系の計算量の究明:25年度に提案した量子対話型証明系の新しいモデルの計算能力を追究する。特に、様々な制限がそのモデルの計算能力にどう影響するかを究明する予定である。 なお、国内・国際会議で発表するなど、本研究課題で得られた成果を引き続き広く公開していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は本研究の理論的な基礎に力を注ぎ、当初計画していた高機能の計算機の導入を次年度に変更した。 これまでに得られた成果を確実に拡大していくため、計算環境をより充実する必要があるので、高機能の計算機と数値計算ソフトウェアを導入する予定である。それで演算能力を最大の状態に整えて、グラフ問題や組み合わせ問題の代数的な構造を特定し、新しいアルゴリズムの構築を目指す。
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