研究課題/領域番号 |
24700006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角谷 良彦 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (70376614)
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キーワード | 形式手法 / 量子計算 / プロトコル |
研究概要 |
量子プロセス計算の双模倣に関する理論的な考察に基づいて、量子プロトコルの等価性判定ツールの開発を行った。ツールの実装とその応用については、久保田氏らとの共同研究として発表されている。 等価性判定の応用例は、量子鍵配送プロトコルBB84の安全性証明である。BB84はShorとPreskillによって安全性が証明されているが、その証明では、BB84がEDPを用いたプロトコルと等価であることが議論されている。本研究では、プロトコルを量子プロセス計算の中で形式化し、プロトコル同士の等価性を双模倣によって保証した。量子プロセス計算における測定の取り扱いについては、昨年度の研究である程度明らかになっていたが、ツールを実装することで、多くの現実的な場合には、問題を取り除くために構文的な制約が有効であるということが分かった。 量子プロセス計算の研究としては、双模倣以外の等価性についても理論的な成果が得られつつある。量子プロセス計算においては、これまで観察等価性の適切な定義は存在しなかった。本研究では、双模倣よりも物理的意味論に近い等価性として、ある種の観察等価性を提案した。ただし、観察等価性の適切さについては依然として議論の余地がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
双模倣に基づくツールの実装はほぼ終えることができ、その点では達成度は高いと考えられる。ツールの適用例を増やすことも課題であるが、量子鍵配送の分野において最も重要とされるBB84への適用が成功しており、とても順調である。 理論的には、双模倣をプロトコルの安全性証明の等価変換部分に応用するための手法を確立することができたことは、達成度の一つの基準である。加えて、ツールの実装を通じて、近似を双模倣的に捉える着想を得ることができた。この近似双模倣のアイデアは、量子計算のみならず確率付きの通常計算にも応用が可能であると予想される。近似双模倣の研究は、研究協力者である久保田氏の博士論文の内容と関係が深いが、それと合わせればある程度の理論的下地が達成されていると判断することができる。観測等価性の研究に関しては、今のところ完成度は低いもの、研究当初には予想していなかった成果も得られており順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
近似双模倣の理論的研究を中心に進めていく予定である。近似的な等価性を用いてプロトコルの安全性を別のプロトコルの安全性に帰着するという議論は、これまでも古典的な場合にはよく行われてきたが、量子プロトコルではほとんど例を見ない。本研究における近似性の議論が成功すれば、量子プロトコルに関して、これまでにない新たな安全性証明の手法が確立されるという可能性もある。また、通常の古典計算でも、近似的な観測等価性は議論されていたが、近似的な双模倣についての研究は少ない。このため、量子計算における近似双模倣の研究は、古典計算に対してもある程度の貢献が見込まれる。以上のことから、近似双模倣は非常に重要な研究課題であり、これを主体に研究を進めるのがよいと考えられる。 また、観察等価性は双模倣と並んで重要とされる等価性であり、近似双模倣の正当化のためにも、観察等価性の研究を並行して進めておくべきである。観察等価性は、量子物理学における観測と深い関係があると予想されるので、量子物理学と理論計算機科学の融合という観点を重要視して議論を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ツールの実装が想定以上に順調だったため、実装に重点を置いた結果、理論的な論文の執筆がやや遅れてしまった。そのため、論文執筆のための資料購入や論文作成にかかる費用が繰り越されることとなってしまった。また、ツールの開発が基礎的な段階にあったため、その費用が抑えられている。 主に、研究成果の発表に使用する。今年度末になって得られた成果の発表がまだ不十分なため、積極的に成果を発表していく予定である。また、今年度開発したツールをより実践的なものに改良していく予定なので、その整備に研究費を使用する。
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