本研究の目的は,設計書や仕様書を精読する作業であるピアレビューや,ソースコードのデバッグ作業における開発者の視線移動と行動履歴を詳しく分析し,ソフトウェア開発における熟練者の作業手順から,効果的な不具合検出戦略を明らかにすることである. 昨年度までに,計画当初の目的であった視線移動と行動履歴の分析を行い,レビュー開始時に設計書とソースコードの読み方を教示することで不具合の検出率が平均で8.9%向上することを明らかにした.また,開発者の脳血流量の変化からプログラム理解過程における作業負荷を計測する手法を開発した. 研究期間4年目である本年度は,前年度に開発した手法を用いて,ソースコード中の処理を理解する過程における脳活動を計測する実験を行った.プログラム中に現れる1)数値計算,2)変数内の値の記憶,3)条件分岐の判断に対して,作業記憶や計画的な行動に関連するとされる前頭極の血流量の変化をNIRSを用いて計測した結果,変数の記憶を必要とするタスクで有意に高い脳活動が計測された.本研究で得られた成果は,視線移動や行動履歴に加えて,脳血流の計測も,ピアレビューにおける開発者の行動や状態を把握するために有用である可能性を示唆している.
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