最終年度の研究では主に,レイヤ横断的に通信制御を実現する方式について検討を行った.本年度の検討では主に(1)オポチュニスティックルーチング(OR:Opportunistic Routing)に関する検討,(2)ブロック伝送方式に関する検討,(3)近傍端末を利用したマルチキャスト配信の性能向上に関する検討の3点について研究を実施した.(1)のORでは,高い端末の移動性に対応するため,柔軟な経路制御が必要となることから,主に移動性の高い環境で通信の信頼性を向上させるための通信方式の研究を実施した.提案方式では,端末の移動による通信効率への影響を低減するため,移動の傾向や転送履歴を基に中継端末選択を行うことで,移動環境下での通信効率向上を達成した.(2)のブロック伝送方式は,通常パケット単位で実施される通信制御を複数のパケットを含むブロックという単位で統合し,効率的にデータ配信を実現する手法であり,ORやマルチパスルーチングと組み合わせることで効率的な通信を実現する手法である.ここでは,(1)で実施したORの実用例として,ORとブロック伝送を組み合わせた通信制御方式を提案した.(3)では,レイヤ間協調を用い,下位層や上位層から取得した情報を基に,経路制御を実施する手法についての検討を行い,通信効率の向上を達成した. 研究期間全体では,研究の目的である統合的通信方式に対し,上記の3点の他にデータリンク層における再送制御方式やクロスレイヤ制御を用いた時間的負荷分散手法についての研究を実施した.これらの研究成果から,従来の通信方式で用いられていたレイヤごとの制御を拡張し,複数レイヤ間で協調制御を実現し,通信効率の向上を達成した.
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