研究課題/領域番号 |
24700091
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
土方 嘉徳 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10362641)
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キーワード | 情報推薦 / 推薦システム / ユーザプロファイル / 可視化 / 気づき / 汎化 / 詳細化 / 意思決定 |
研究概要 |
前年度までで,ユーザへのユーザプロファイルの提示により,ユーザの自分自身の興味への気づきが誘発されることを確認した.しかし,その気づきを得た後に,その後のアイテム選択の意思決定が容易になることは確認されなかった.今年度は,その理由について調査した. 我々の仮説が否定された理由を考察するため,6名の被験者にインタビューを行った.インタビューでは,“気づきを入力する前と後で,アイテムを評価する際に考える内容は変化したか”を尋ねた.その回答から,気づき入力前後での被験者が考える内容の変化は,“より深く(複雑に)考えるようになった”,“変わらない”,“より簡単に考えるようになった”,の3つに分類できることがわかった. この結果を踏まえ,気づきを獲得した18人の被験者に追加アンケートを実施した.追加アンケートでは,“気づきを入力する前と後で,アイテムを評価する際に考える内容がどのように変化したか”を上述した3分類から選択してもらった.そうすると,より簡単に考えるようになったユーザは半数以下にとどまり,逆により深く考えるユーザもいることが分かった.そのため,自信を持って意思決定できる人と,逆により慎重に意思決定する人とが併存し,結果として仮説が否定されたと考えられる. 我々はさらに,ユーザプロファイルの閲覧で得られた気づきの内容についてインタビューにより調査した.具体的には,気づきの種類を,提示された情報をそのまま入力している気づき(same),提示された情報のいくつかをまとめ一般化した単語で表現している気づき(gene),提示された情報を具体的なあるいはより詳細な単語で表現している気づき(embo),まったく新しい内容についての気づき(new)に分類した.その結果,geneだけでなくemboの気づきを得たユーザも多くいた.これが意思決定の際の思考の変化の多様性を生んだものと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの研究の進展であるが,申請当初よりも大きく進展している.その理由としては,実験に用いるアイテムの収集やプロファイル形式に関する基礎検討を,交付内定が出る前から行っていたためである.また,交付前から情報推薦に用いる推薦アルゴリズムの実装を開始していた.このため,交付決定後に,すぐにプロファイル形式に関する調査と,プロファイル提示の被験者実験を開始することができた.これらにより,大幅に時間を短縮することができた. また,当初計画では,ユーザプロファイルを提示する部分を限定することを考えていた.これは,限定することにより,ユーザはその部分について注目し,より多くの気づきを得られるものと考えたからである.研究計画では,ユーザプロファイルのどの部分を選択するのか,それをどのように提示するのかに関する基礎的調査も行う予定であった. しかし,前年度にこの基礎的調査を始めたところ,ユーザにユーザプロファイルの一部だけ見せても,全体が把握できていないため,その意味を理解することが非常に難しいことが分かった.そのため,ユーザプロファイルの部分提示に関する調査が全くなくなってしまった点も,研究の進展を進めた理由である. 前年度に研究計画より早く研究を実施できたため,今年度は意思決定に関する調査を詳細に行うことができた.自身の嗜好をよく理解することは意思決定を迅速にできると考えていたが,嗜好への気づきはそれほど単純ではないことが分かった.なぜなら嗜好への気づきには,嗜好への理解を単純化するものと複雑化するものの両方があることが分かったからである.複雑化の場合も,これまで見落としていた興味のあるアイテムの発見につながる効果が期待されるため,いずれの気づきも有用であると思われる.そこで,意思決定の迅速さを促すような機能や方式に関する研究はこれで終了することにした.これも研究の進展を勧めた理由である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により,ユーザプロファイルの可視化によりゆーざの気づきが誘発されることを確認した.しかし,その気づきには嗜好への理解の簡単化と複雑化の2種類があり,単純に意思決定を迅速にする効果があるわけではないことが分かった.そこで,これ以上,意思決定の効率化を行うための機能や方式に関する研究を実施することは中止することにした. 一方,当初の研究計画では,ユーザプロファイルの可視化によりユーザの気づきを誘発することを考えていた.しかし,ユーザプロファイルの提示は,通常の推薦システムのプロセスの中では必ず発生するものではない.ユーザプロファイルそのものは,ユーザの嗜好に対するモデルとなっているため,非常に情報量が多いが,その閲覧には一定の労力を要する.商用Webサイトへの適用を考えた際には,Webサイトによってはその労力を許容しないところもあると考えられる. そこで来年度からは,ユーザプロファイル提示のような追加の機能ではなく,必ず必須となる推薦リストの提示において興味への気づきを誘発できないかを考えたい.例えば,推薦リストにおいて,そこに含まれるアイテムを,推薦スコアが上位のものだけでなく,下位のものも含まれるようにするような方法である.このようにすると,推薦システムがあえて,ユーザの嗜好への適合だけを狙ったものだけでなく,ユーザが驚きを持つようなアイテム(serendipityを伴うアイテム)の推薦を試みていることに気付くかもしれない.来年度は,推薦リストそのものの提示に気づきの誘発を行う仕組みを導入していきたいと考えている.
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