研究課題/領域番号 |
24700106
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
高山 穣 九州産業大学, 芸術学部, 講師 (50571907)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | グラフィックス |
研究概要 |
本研究年度における実施内容は大きく分けて二項目に分類でき、その内容は以下の通りである。 1、まず、装飾様式の選定とその数理的規則の解明を行った。様式選定については複数の装飾様式の幾何学的特性を比較検討した結果、モチーフ同士の重なりが発生しないという理由によりゴシック様式のトレーサリー装飾を選択した。トレーサリーは、その装飾が全て円弧の組み合わせで成り立っていることを特徴としており、その表現のため当初はメタボールという濃度分布を用いた描画法を併用する予定であった。特にカスプと呼ばれる突起状モチーフを矩形メタボールで表現する方法を試みたが、好ましい形状を得るための濃度コントロールが極めて難しいことが判明し、結果として円弧を組み合わせる形式の新たなアルゴリズム開発を行った。ゴシックトレーサリーにおいては、配置された円の中から任意の円弧を抽出することでモチーフを描き出すことができるが、そのプロセスは人間の直観的な判断が必要であり、幾何学的・解析的な方法のみでは表現が難しい。従って本研究ではモチーフ指向型のアルゴリズムを用いることとし、先にプログラムが自動的にモチーフを最適な場所に設置し、その後に必要な円弧の配置を計算する内容となっている。結果として、実在するトレーサリーに近い図案が多様に自動生成されることを確認した。 2、次に、上記生成結果に基づいて立体的な形状表現を行うことを試みた。これについては、得られたグレースケールの画像から法線ベクトルを計算し、輝度計算を行うことでレリーフ調の画像生成を行っている。また、前述のグレースケール画像を用いてディスプレイスメントマッピングへと応用する実験も実施しているが、リトポロジーの問題などが生じており、ポリゴンデータの効率的生成が今後の課題として浮上した。 以上の内容について国際学会へ学術論文の投稿を行っており、本報告時点において査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究年度においては次の理由により研究実施の遅れが生じている。当初、本研究において購入のうえ用いる予定であった物品(3Dプリンタ)の製造が本研究年度中に中止され、当該物品の入手が難しくなった。他社の同等製品が存在しない状況であったため、当初の予定メーカーの後継機種の発売開始を待って購入することとなったが、製造トラブル等によりメーカー(米国)からの輸入時期が遅くなり、予定より納品が大幅に遅れてしまうこととなった。その結果、形状出力に関する基礎研究の実施が本研究年度ではほとんど実施できていない状況である。 一方で、装飾文様の数理的規則の解明については概ね順調に進んでいる。画像出力の段階まではアルゴリズムの実装が完了しており、実在する装飾にかなり近い形状が自動生成できることが確認できている。立体形状への変化については、本研究年度で完了していないため、次年度でも継続して実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究年度での実施結果を受けて、三次元データ構築のための課題等が明確化されたため、今後はそれらを念頭においた研究実施を行う。具体的に、二次元画像データからディスプレイスメントマッピングで三次元形状へと変換されたデータにおけるリトポロジーの問題がある。これについては、市販スカルプト系ソフトウェアによる効率的な方法を探るほか、独自のスクリプトによって効率化を行う方法も検討する。また、二次元画像データを介さず直接三次元のポリゴンデータを書き出すことも検討しており、データ構造が比較的単純であるSTL形式での書き出しなどを試みる予定である。 なお、本研究年度での実装が完了していない部分があり、現時点のアルゴリズムでは特定の装飾モチーフや配置条件が再現できない状況である。より実在する装飾様式に近づけるため、それらの改善を予定している。 以上の項目に加え、SIGGRAPH等の関連学会の視察を通じ、上記研究計画の遂行に必要な資料収集を行うと同時に、得られた成果については国内外での発表を目指す。具体的発表形態は学会発表や論文執筆等に加え、発表予定の関連学会に併設されるアート系公募展での審美的造形物としての発表なども考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず次年度使用額についてであるが、当初購入予定の物品(3Dプリンタ)が製造中止となり、急遽同一メーカーの後継機種へ切り替えて購入したため、当初の使用予定額と異なり残額が生じた。この差額は、次年度使用額として3Dプリンタの消耗品等の購入に充てたい。特に消耗品の価格も、本研究課題申請当初とは大きく変動しているため、これらの費用が必要となる。 また、SIGGRAPH等の関連学会の視察を行い、情報収集を行うため、それらの旅費や学会参加費を使用する。また、現在査読中の国際学会への論文がアクセプトされた場合、発表費や旅費を支出する予定である。その他、CGやデジタルファブリケーション関連学会での発表を行うため、それらの成果発表に係る費用を支出する予定である。
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