研究課題/領域番号 |
24700124
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
湯浅 将英 東京電機大学, 情報環境学部, 助教 (80385492)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | fMRI / ヒューマンインタフェース / 擬人化エージェント / ヒューマンエージェントインタラクション |
研究概要 |
二者間の談話において,対話者らは相手の話すことを様々なレベル(音韻のレベル,語彙のレベル,意味のレベル,状況のレベル等)で理解している.たとえば,相手が発したことがそもそも”言葉”であるのかという音韻理解のレベル,単語がなにであるかの語彙(ごい)理解のレベル,単語が組み合わされた文の意味理解のレベル,発話された文と文の間から判断される「いつ,だれが,なにをした」といった状況理解のレベル等である.これらのそれぞれのレベルにおいて,対話者同士は,相手に理解できる言葉や文章を無意識的に発し合うことでお互いに素早く談話を理解していると考えられる.これまでの先行研究において,語彙のレベルや意味のレベルの理解についての脳計測実験が行われ,与えられた言葉や文章内に音韻や語彙,意味の一致が見られる場合には,側頭回付近が賦活することが多く述べられている.しかしながら,状況理解のレベルについては,二者間で自在に話される文を扱うことになり,単純な提示方法ではうまく制御できないため,実験が非常に難しく実験されてこなかった.本研究課題では二者間で音声で会話する実験装置を用意し実施した. 24年度は実験結果,二者間の談話において,状況が徐々に構築されていく際に,側頭回付近が賦活することが得られた.先行研究における脳賦活結果も含め,対話における様々なレベルの理解は側頭回が関連する可能性が考えられ,会話コミュニケーションにおける新たな知見になると考える.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の脳計測実験の経験をもとに実験実施協力者らと入念な準備を進め,十分な実験数と意義のある結果を得ることができた. 実験は新規のものであり,実験デザインを慎重に考えることと信頼性の高いデータを得る必要があった.このため(1)適切な会話内容を考えること,(2)レスト刺激をタイミングよく入れることが課題であった.会話内容については何度も試行錯誤と予備実験を繰り返し,また状況理解に関する先行研究を参考するなどにより,実験に適切な会話内容を準備できた.レスト刺激のタイミングについては,fMRI実験の研究者/経験者と事前に相談し,スキャンのタイミング,レスト刺激の提示時間,提示刺激タイミングのランダム化を施すことができた.なお,信頼性の高いデータを得るために実験協力者数を多くすることも課題であったが,学内外に協力を仰ぐことで20名以上の実験協力者を得ることができデータの信頼性を高めるに至った.適切な実験刺激と信頼のあるデータから,人が会話において状況理解するときに側頭回付近に脳賦活部位があるという新たな知見が得られた.二者間会話において状況モデルが構築されることを仮定し脳計測を実施した事例はこれまでになく,会話コミュニケーションの脳機能および神経基盤を解明する上で重要な知見が得られたと考える.実験経過については生体磁気学会で発表し,今後,本研究成果を学術論文で発表予定である.さらにこれまでに得られた計測データから新たな知見を得るためデータ解析と検証を続けている.
|
今後の研究の推進方策 |
24年度は,人の会話コミュニケーション時の脳計測について新しい知見が得られ,現在は人の会話に加えて表情や視線も用いた会話実験を始めている.24年度では主に状況が構築される会話と状況が構築されない会話を解析していた.さらに次年度は会話内容に合わせ視線が話者に向けられる状況と向けられない状況を脳計測し解析する.それに先立ちMRI実験室と準備室を映像と音声で結び,会話できる装置を構築して予備実験を進めている.予備実験は話の状況に応じて聞き手の視線が向けられ自分が話す状況であるときの脳賦活を計測するものである.予備実験の結果,会話状況に合わせて視線が用いられた場合に,側頭回付近が賦活する可能性が考えられた.データは検証中であるが,自分が話すべき場(状況)である時の脳賦活が得られる可能性があり,新しい知見になると考えられる.なお,予備実験の段階では,実験協力者がこちらの意図と異なる言動をする場合があった.実験の教示を正しくやり直し,信頼性を高めた追加実験も予定している.また,刺激提示と映像や会話が合わない場合もあり,タイミングを正しくするようにプログラムを改良している.人の視線を用いた実験で知見が得られた後,擬人化エージェントを用いた実験も予定している.
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は(1)実験装置の拡充(2)学会・打ち合わせ旅費(3)実験協力者/実験補助者謝礼に使用する予定である. (1)fMRI装置が設置してある室内では強い磁場が発生しているため,特殊な非磁性の入出力刺激装置が必要であるが,これらの設備は現状では用意されていない.このため,非磁性で手による入力ができるデータグローブを準備する等,研究を万全の状態で進めたい.さらに実験データ解析のための高速なPCと大容量ハードディスクを年度ごとに追加購入し,研究の効率化をはかる.必要に応じて実験部品を購入し非磁性入力ボタンを自作する. (2)本課題は,ヒューマンインタフェース,脳科学,人工知能,認知心理学の領域であり,この分野の成果は,電子情報通信学会,人工知能学会,CHI(ACM),HCI,IJCAI, IEEEの学会において発表されている.研究者は,これらの国際会議に参加し,発表により研究者と議論し研究を進展させる予定である.このための旅費等,また,国際会議に投稿する場合の英文添削用に予算を計上する. (3)fMRI実験の協力者への謝礼として計上する.fMRIという特別で拘束性の高い装置の実験に協力していただくこと,拘束時間も長いことから実験に協力してくれた方には十分な謝礼を渡し,また実験課題のインセンティブとすることで信頼のあるデータを得ることを目指す.また,実験のデータを解析する協力者を募り,作業に応じた謝礼を支払うことを予定している.脳計測データの解析には時間がかかるため,データ解析の協力者とともに作業することで研究作業を効率化し,新しい知見を得ることを目指す.
|