研究課題/領域番号 |
24700124
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研究機関 | 湘南工科大学 |
研究代表者 |
湯浅 将英 湘南工科大学, 工学部, 講師 (80385492)
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キーワード | 会話 / fMRI / situation model |
研究概要 |
二者間の非言語動作における協調,非協調の表現方法を探るため,非言語動作における協調,非協調表現と考えられる動きを制御したエージェントを作成し,アンケート調査により,協調的な動作であるか,どのような動作が協調的であるかを探った.さらにそのエージェントを用いた脳計測実験も行った.脳計測実験の結果をこれまでの研究と比較することで,協調的な表現の意味を探った.fMRI計測の解析結果,島皮質付近に有意な賦活が確認できた.これは共感に関連する部位が賦活している.共感とは,相手が感じていることに対して自分も同じように感じること,と考えることができる.今回実験で用いたインタラクションは共感に極めて近いメカニズムがあり,それが脳の島皮質の賦活として明確に示されたと考える.エージェントが「そうなんですか」という表情をしているとき,被験者も「そうだよ」と感じるだけに留まらず,被験者自身も「そうだよ,楽しいでしょ」と同じような感情を持つ.このような「共感」が実験内でおこっていたと予想される. 以上のように,会話における非言語動作にも協調・非協調的な表現があると仮定しエージェントを作成,アンケート実験と脳計測実験を行った.実験の結果,非言語動作における協調・非協調的表現は存在し,さらに協調表現は広義での共感に似ている可能性があることがわかった.なお,この共感が関連することは,あらかじめ評価項目を考えて実施するアンケート実験のみからでは極めて予想が難しいことである.本研究のようにアンケートとfMRI実験を合わせた試みは今後重要と考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
fMRI測定室内と室外の二者で音声会話ができる実験環境を作成し,二者間で会話の状況を理解しているときの脳計測を実施し,検証した.先行研究で文章や物語等を読んでいるときの登場人物の心境や話の状況理解を推測するものはあったが,会話コミュニケーションにおける状況理解の研究までは取り組まれていない.そこで,複数人会話において「相手は何の話題について述べているのか」「相手の言っている言葉は正しいのか」などの会話状況を理解する際のモデルを仮定し,モデルに基づいた会話パターンごとのfMRI計測を実施した.実験を重ね,実験デザインも改良し,話の状況が決まるときと話の状況が決まらないときの賦活の差を取るための実験デザインを作り出した.話の状況が決まらない会話は,状況が決まる会話と文章は同じだが,順番を替えることで状況が決まりにくくなっている会話である.それを用いた実験により,MTGが有意に賦活することが得られた.この脳部位において,人は話の状況のような高次の文脈情報の処理をしている可能性が考えられた. また,会話における非言語動作にも協調・非協調的な表現があると仮定しエージェントを作成して,アンケート実験と脳計測実験を行った.実験の結果、非言語動作における協調・非協調的表現は存在し,さらに協調表現は広義での共感に似ている可能性があることがわかった. 以上の実験をもとに,さらにコミュニケーション時の脳計測について探っていく.
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今後の研究の推進方策 |
会話における非言語動作にも協調・非協調的な表現があると仮定,エージェントを作成して,アンケート実験と脳計測実験を行った.実験の結果,非言語動作における協調・非協調的表現は存在し,さらに協調表現は広義での共感に似ている可能性があることがわかった. 以上の実験をもとに,さらにコミュニケーションにおける協調・非協調の原理の理論的考察を進めていく.人のコミュニケーションの協調の原理については,協調原理のような「なるべく人と人が協調をする性質」は,言語や非言語のみにとどまらない可能性があることである.様々な分野で人に備わる協力の原理が説明され,たとえば「人の集団」において集団内に居続けるためには協力態度が重要である.経済学や数学において長らく研究されてきたゲーム理論においても,関係性を維持するために人には協力する性質があることが主張されている.このように人には関係を維持するために、自然に協力的に振る舞う性質があることが述べられている. しかしながら,これらがコミュニケーションの基盤となっていることを詳細に説明するところまでには至っていない.さらに会話においても,人同士は相手がどのように振舞っているかを観察し,もし相手が話したそうならば話をさせてあげる,といった協力をしていると考えられる.会話中には「話したい態度(話したそうな表情や口元,しぐさの変化)」を表出し,二者は発話を交替させながらも互いの様子を観察し,「話したい」という態度が表出されていないかを確認しており,もし話したい態度が表出されるとそれに合わせて話をさせてあげるように振舞う,この振る舞いは会話では「互いに話せるようにするための協力」であり,その結果として二者の会話が継続される,と予想される. 今後さらに理論的考察とエージェントを用いたコミュニケーション実験を進め,ヒューマンコミュニケーションの基盤を探ることを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度はfMRI使用と実験準備のための物品費用が主な支出であった.コミュニケーション実験とMRI実験の準備と実験を実施したが,当初の見積りよりも少なく実施することとなった.次年度は擬人化エージェントのコミュニケーションに関する実験について,さらに追加の実験をする予定である.次年度の使用額はその準備費用とし,追加実験のためのPCやネットワーク関連の機材の購入,PC接続部品などの消耗品等をする.また,実験の成果の学会発表の旅費,会議参加費と論文作成雑費,英文校正費用とする予定である. 次年度は擬人化エージェントのコミュニケーションに関する実験についての成果の学会発表の旅費と論文作成費用として使用する.さらに追加実験のための機材の購入等をする.擬人化エージェントとの追加実験のための複数のPCの購入やバージョンアップをする.また,複数人のコミュニケーション実験や擬人化エージェントと対話する実験をデザインする予定である.この実験では擬人化エージェントが動作させるPCの準備が必要である.さらにPC同士をネットワーク経由で結ぶ.PC同士の接続にはネットワーク機器および有線LAN環境,それを制御するサーバとなるPCも準備する予定である.これらの実験をするための消耗品類も購入する予定である.
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