既存のマルチエージェント分野における自動交渉機構の研究は論点がそれぞれ独立であると仮定されており、現実的な問題設定ではなかった。一方で、現実世界はWebの発展により大規模な合意形成の必要性が高まっている。そこで、本研究ではマルチエージェントの自動交渉機構に関する交渉論点の依存関係の構造化および分類、交渉論点の依存構造を考慮した交渉手法の提案、現実の交渉事例に基づいた交渉手法の検証および評価に関して研究を実施し、現実世界に近い設定を想定した交渉手法を開発、および、交渉事例を分析および評価を行う。 本年度は、非協力交渉問題における相手の効用情報非公開状況を仮定した二者間交渉手法の開発を行った。上記の状況においても論点間に依存関係が存在する場合に関する既存研究は少ない。本研究では、過去の同一状況下での履歴情報を活用して相手の交渉戦略のタイプを分類する。その際の分類方式はThomas-Kilmann Conflict Mode Instrument (TKI)にしたがい決定している。TKIは非協力交渉下における人間の行動をモデル化したものであり、協力性と自己主張性の二つの指標から5つのタイプに分類したものである。提案手法では、それらのタイプを過去の履歴と現在の交渉状況の違いから判断している。また、相手のタイプに対して最も効果的な戦略を取る。さらに,効用関数が非線形の場合でも有効に動作する可能性を評価した.本提案戦略を評価するために、自動交渉エージェント競技会世界大会(ANAC2014)の上位エージェントと対戦させた.実験の結果,交渉問題のサイズが小さい場合は上位エージェントより優位な結果をえられることが分かった.一方,交渉問題が大きくなると提案エージェントは適切な合意案を発見できない問題も判明した.
|