研究課題/領域番号 |
24700183
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
錦戸 信和 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 感覚機能系障害研究部, 流動研究員 (60610409)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 吃音 / 聴覚フィードバック / ホルマント周波数 |
研究概要 |
構音の聴覚フィードバック制御の応答特性を調べるために、摂動を付与したフィードバック音声を持続母音の発話中に呈示し、摂動に対するホルマント周波数の応答を測定した。測定には、事前に収録した被験者の発話音声に基づき、摂動を加えた合成音声を被験者の発話タイミングに合わせて呈示する開ループシステムを用いた。被験者は、吃音のない成人男性5名とした。測定条件として、フィードバック音声に注意を向けた場合と向けない場合の2条件及び、摂動を付与する時間を0.5sと2sの2種類とした。 測定した応答を解析した結果、各被験者に対して、摂動を付与しない場合と比べ統計的に有意な2種類の応答が得られた。一つは、摂動を付与した方向と逆方向に変化する応答(補償応答)であり、もう一つは摂動を付与した方向と同方向に変化する応答(追従応答)であった。先行研究(Shih et al., 2011)では、被験者が発話した音声に実時間で摂動を付与しフィードバックさせる閉ループシステムを用いた測定の結果から、統計的に有意な2種類の応答が示されている。今回の成果は、開ループシステムにおいても、閉ループシステムと同様の統計的に有意な2種類の応答が得られることを示した。 また、摂動付与時間が0.5sの条件では、フィードバック音声に注意を向けることにより追従応答の割合が増加する可能性が示唆された。先行研究(岡崎 他, 2010)では、フィードバック音声に摂動を付与した場合の基本周波数(F0)の応答特性の解析から、フィードバック音声に注意を向けることにより補償応答から追従応答に変化する可能性が示唆されている。今回の成果は、先行研究の結果と一致する。 さらに、構音の聴覚フィードバック制御に関する研究は、F0などの韻律の聴覚フィードバック制御に関する研究に比べ少ないため、今回の成果は貴重な知見になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的に対する現在までの達成状況として、吃音のない人に関して、開ループシステムを用いた場合の摂動に対するホルマント周波数の応答特性を解析し、補償応答と追従応答を示した。さらに摂動に関するパラメータの検討により、パラメータの一部について応答への影響が示唆された。 吃音のある人に関しては、吃音のない人と同様の実験を行い、応答を測定した。しかし、応答の解析は今後行う予定のため、吃音のある人に関する応答特性の解析及び、吃音のない人との応答特性の比較検証の部分に関して、遅れが生じている。 この遅れの理由として、H24年度における実験に用いたシステムの変更が挙げられる。H24年度の予定では、閉ループのシステムを用いて実験を行い、摂動付与の実時間処理は、当初専用DSPを開発する方針で進めていた。しかし、費用と修正などの管理の手間を検討し、汎用PC上でプログラムを実行し実時間処理を行う方針に変更した。この影響に基づき工数や実験のスケジュールなどを考慮した結果、H24年度は開ループのシステムを用いた実験を行うように変更したため、多少の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は、吃音のある人に関して、開ループシステムを用いて測定した摂動に対するホルマント周波数の応答を解析し、吃音のない人との応答特性の差異を検証する。 また、H24年度に行うことができなかった、閉ループシステムの構築を行う。閉ループシステムでは、実時間でフィードバック音声に摂動を付与する処理を必要とし、この処理には汎用PCを用いる。具体的には、汎用PCに接続したオーディインタフェースを制御し、実時間で入力音声に摂動を付与し出力するプログラムを開発し、汎用PCに実装する。研究の進み具合に応じて、プログラム開発の外部発注、または技術補助員の雇用も検討する。 閉ループシステムを構築した後に、H24年度と同様の応答の測定に閉ループシステムを使用し、開ループシステムの結果との比較検討を行う。 また、H26年度にfMRI実験を行うために、ホルマント周波数の応答の測定に用いたタスクをfMRI実験に適用するための検討及び予備実験をH25年度に行う。 H26年度に関しては、当初の予定通り、吃音のある人とない人との比較の結果に基づき、より差異を生じさせるシステム及び摂動に関するパラメータを用いて、吃音のある人とない人それぞれに対してfMRI実験を行う。fMRI実験の結果を解析することにより、構音の聴覚フィードバック制御機構に関連する神経部位を明確にし、吃音のある人とない人との制御機構の差異を比較検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度から、所属する研究機関を変更したことに伴い、新たな支出が発生する。新たな所属研究機関においても、行動実験及びfMRI実験を行う設備は整っているが、本研究における実験を行うために新たに備品を購入する必要がある。さらに、MRI施設に関して、前所属研究機関と異なり、新たな研究機関では使用する際に利用料が発生する。また、実時間処理のプログラム開発及び実装において、必要に応じて開発及び実装を外部に発注する、または技術補助員を雇用するための費用が発生する。これらの新たな支出には、次年度に使用する予定の研究費を割り当てる。 H25年度以降に請求する研究費に関しては、当初の使用計画通りとする。
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