研究課題/領域番号 |
24700183
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
錦戸 信和 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 研究員 (60610409)
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キーワード | 吃音 / 聴覚フィードバック制御 / 補償応答 / 追従応答 / clustered fMRI |
研究概要 |
構音の聴覚フィードバック制御の応答特性を調べるために、摂動を付与したフィードバック音声を持続母音の発話中に呈示し、摂動に対するホルマント周波数の応答を測定した。測定には、事前に収録した被験者の発話音声に基づき、摂動を加えた合成音声を被験者の発話タイミングに合わせて呈示する開ループシステムを用いた。被験者は、吃音のある成人男性(PWS)5名および、吃音のない成人男性(PNS)5名とした。 測定した応答を解析した結果、PWS、PNS共に、一部の被験者で、補償応答(摂動を付与した方向と逆方向の変化)と、追従応答(摂動を付与した方向と同方向の変化)の二種類の応答がみられた。また、PWSとPNSの応答の大きさを定性的に比較した結果、PWSの応答の大きさはPNSの応答の大きさと同等以下であることが示唆された。Caiら(Cai et al., 2012)は、被験者が発話した音声に実時間で摂動を付与しフィードバックさせる閉ループシステムを用いた測定を行い、同様の結果を示している。今回の成果は、PWS、PNS共に、閉ループシステムと開ループシステムで同様の結果が得られる可能性を示唆している。 また、聴覚フィードバック制御を行っている際の脳活動を測定するため、MRI環境で摂動に対するホルマント周波数の応答を測定する開ループシステムを構築した。構築したMRI用開ループシステムを用いて、実験タスクおよびMRIのパラメータ等の検討を目的として、摂動に対する応答および、応答時の脳活動を測定した。被験者は吃音のある成人男性2名、成人女性1名、吃音のない成人男性2名、成人女性1名とした。fMRIによる脳活動の測定に関しては、発話時のアーチファクトやMRI機器から発生する騒音の影響を低減させるために、発話後の一定期間のみスキャンを行うclustered fMRI(Fu et al., 2006)を用いた。測定したデータの解析は次年度に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的に対する達成状況として、吃音のある人(PWS)とない人(PNS)それぞれに対して、開ループシステムを用いた場合の摂動に対するホルマント周波数の応答を測定・解析し、PWSとPNS共に二種類の応答を示すことを確認した。また、PWSとPNSの応答特性の定性的比較も行い、応答特性に差異がある可能性を示した。さらに、MRI環境で摂動に対するホルマント周波数の応答を測定する開ループシステムを構築し、摂動に対する応答と応答時の脳活動を同時に測定することが可能となった。 当初の予定に対して、PWSとPNSの応答特性の比較を定量的には行えておらず、また開ループシステムと閉ループシステムとの比較検証に関しても、遅れが生じている。 この遅れの理由として、H25年度における環境の変化が挙げられる。H25年度から新しい所属先となり、実験環境を一から構築し直した。さらに、環境の変化により被験者を募集するための労力も以前に比べ大きくなった(特にPWSに関して)ため、多少の遅れが生じた。 また、開ループシステムによる行動実験の結果と、(実験条件など多少異なるが)閉ループシステムによる先行研究の結果が同様の傾向を示していることから、開ループシステムを用いたPWSとPNSの応答特性および脳活動の比較検証を優先したため、開ループシステムと閉ループシステムの比較検証が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、吃音のある人(PWS)とない人(PNS)それぞれに対して行ったfMRIの予備実験の結果を解析し、実験条件やパラメータについて検討する。 また、閉ループシステムを構築し、開ループシステムを用いた実験の被験者と同じ被験者に対して、閉ループシステムを用いた実験を行い、差異の有無を確認する。 上記の結果に基づき、システムや実験条件等を絞込み、被験者の人数を増やしてfMRIの本実験を行う。実験の結果得られた摂動に対する応答および応答時の脳活動の両方に対して、PWSとPNSとの比較を行い、構音の聴覚フィードバック制御機構に関連する神経部位を明確にし、さらにPWSとPNSとで制御機構に差異があるという仮説について検証する。 最終的に得られた成果を外部に発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度において、当初予定していた回数分の実験を実施することができなかったため、謝金分の予算を次年度に繰り越した。 H26年度は、H25年度において実施できなかった分の実験を行うため、繰越分はそのまま謝金に使用し、H26年度の研究費についても、謝金へ使用する割合を増やす。また、実験結果の解析補助を依頼する技術補助員への謝金を新たな支出費用とする予定であり、H26年度の研究費から新たに割り当てる。なお、被験者および技術補助員への謝金に関する支出が増える分、H26年度の研究費の他の支出を減らす。
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