研究実績の概要 |
構音の聴覚フィードバック制御の応答特性および制御時の神経機構を調べるために、MRI環境で摂動を付与したフィードバック音声を持続母音の発話中に呈示し、摂動に対するホルマント周波数の応答および応答時の脳活動を測定した。被験者は、吃音のある成人(PWS)10名(男性7名、女性3名)および、同条件の吃音のない成人(PNS)10名とした。 測定した応答を解析した結果、PNSの場合、補償応答(摂動を付与した方向と逆方向の変化)、追従応答(摂動を付与した方向と同方向の変化)によらず、応答の平均の大きさは摂動の大きさの10%程度だった。一方、PWSの場合は、補償応答は15%、追従応答は10%程度となり、補償応答の大きさは、PurcellとMunhallらの結果と一致した(Purcell and Munhall, 2006)。ただし、PWSとPNS間、およびそれぞれの補償応答と追従応答間で有意差はみられなかった。 応答時の脳活動を解析した結果、PWS、PNS共に摂動付与条件において、摂動なし条件と比べ、左右の上、中側頭回において賦活がみられた(p<0.001(uncorrected), k=100 voxels)。この領域は、1次聴覚野やウェルニッケ野(知覚性言語野)に相当し、PNSの場合、遅延聴覚フィードバック環境において発話した際の測定結果と一致する(Sakai et al., 2009)。また、PWSと比較して、PNSでは左右の上側頭回後部の賦活がみられ、これはホルマント周波数の変調聴覚フィードバック環境において発話した際の測定結果と一致する(Tourville, 2008)。この領域は、意図した発話と聴覚フィードバックとの比較を行っているという報告があり(Guenther, 2006)、PWSとPNSで聴覚フィードバックの神経機構が異なる可能性が示唆された。
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