研究課題/領域番号 |
24700222
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 剛平 東京大学, 生産技術研究所, 特任准教授 (90444075)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 複雑ネットワーク / 頑健性 / 相転移 / ダイナミクス |
研究概要 |
今年度は、複雑ネットワークの動的頑健性に関する基礎数理的研究を行った。動的活動の例として、生体ネットワークなどに見られる振動現象に注目し、振動活動を示す要素(振動子)が相互作用する複雑ネットワークモデルの解析を行った。振動子が正常な振動機能を失い減衰振動子に変化するという摂動を考え、減衰振動子の割合を増加させていくとき、ネットワーク全体の振動機能は弱まっていくが、ある臨界割合に達すると全体の振動機能は完全に損なわれる。この相転移現象を起こす臨界割合を指標としてネットワーク頑健性を評価するとき、臨界割合が大きいほどネットワークの頑健性が高いと言える。 本研究の予備実験では、ある振動子間結合様式を持つネットワークでは、ネットワークの振動機能は結合の少ない要素の故障に脆いという性質が分かっていた。今回、異なるタイプの結合様式のネットワークを解析したところ、ネットワークの振動機能はハブ要素の故障に弱いことが明らかとなった。この結果は、ネットワーク頑健性の性質は、結合様式、すなわち要素間相互作用の種類に大きく依存することを意味している。このことは、生体、通信、電力等の実際のネットワークの動的頑健性を論じるにあたって、要素間相互作用の数理モデル化が極めて重要であることを示唆している。 また、上記の研究では正常振動子と減衰振動子の二種類を考えていたが、振幅の異なる正常振動子や減衰速度の不均一な減衰振動子が混在する、より多様な要素から成る拡張されたネットワークモデルを考え、振動喪失に関する臨界点を解析的に導出する手法を示した。その結果、要素の多様性が大きいほど、ネットワークの動的頑健性は高いことが分かった。このことは、生体内要素の不均一性が生体ネットワークの高い頑健性に役立っている可能性を示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究の目的は、結合振動子ネットワークモデルを研究対象として、ネットワーク動的頑健性の指標である、動的機能の維持と喪失の境界にあたる臨界的な故障割合を解析的に導出することであった。2種類の異なる要素間結合様式の場合について、ランダムに要素が故障していくときの臨界割合を解析的に導出することができ、当初の目的は達成された。これに加え、より不均一な振動子から成るネットワークの解析も行い、その場合についても臨界割合を導出して数値計算によりそれが正しいことを検証した。したがって、当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに発展させてきたネットワーク動的頑健性の解析手法を応用し、実際の動的要素から成るネットワークの動的頑健性を調べる。ネットワーク動的頑健性は、ネットワークの構造、要素のダイナミクス、要素間相互作用、などに依存するため、実際のネットワークを適切に数理モデル化する必要がある。例えば、神経ネットワークの頑健性解析を行うには、神経細胞のダイナミクス、シナプス結合の様式、細胞間の結合性を、それぞれ生物学の知見やデータを反映して定めることが重要である。また、電力ネットワークの頑健性解析を行うには、発電機や変電所のダイナミクス、送電線を通じた相互作用、送電網のネットワーク構造を、それぞれ電力工学の知見やデータを反映して表現することが必要である。これらのネットワークの数理モデル化と動的頑健性の数値的解析を行う予定である。また、前年度までに得られた結果を論文として発表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|