前年度までに、複雑ネットワーク上の動的挙動がネットワーク要素の故障に対してどのくらい頑健であるかを調べるための枠組みを、結合振動子ネットワークを例として発展させてきた。本年度は、これまでの枠組みをさらに拡張するとともに、より具体的な実社会の現象を念頭においた研究を行った。まず、結合振動子ネットワークの動的頑健性に関する研究では、従来は各振動子のダイナミクスが均一であるという仮定をおいていたが、それが不均一である場合の臨界故障割合を求める理論的解析手法を開発した。解析の結果、要素の不均一性が高まるほど、ネットワーク上の振動活動はより高い故障耐性を持つことが分かった。この性質は神経モデルネットワークでも見られた。次に、動的挙動を失った結合振動子ネットワークの効率的回復方法について研究を行った。その結果、故障した部位よりも、まだ故障していない部位を優先的にサポートした方が効率的にネットワーク全体の活動を回復できることが分かった。本結果は、再生医療分野で損傷した生体組織を効率的に回復させる方法を理論的に検討するための第一歩である。さらに、前年度までに開発した理論的枠組みと手法を応用して、感染症対策に関する数理モデル研究を行った。人々の交通網を通じた地域間移動と感染伝播を記述するメタ個体群モデルを用いて、戦略的感染症対策の有効性を調べた。その結果、利用可能な情報に基づいて、一部の地域から優先的に対策を行う方が、ランダムに対策するよりも感染症封じ込めに効果的であることを示した。提案手法によって、どの地域から、どのくらいの割合の地域に感染症抑制のための介入を行えば封じ込めが可能であるかを算出することが可能であり、インフルエンザ等の感染症予防対策に役立つと考えられる。
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