遺伝的プログラミング(GP)において,親のよい形質を効率的に子へ受け継がせることが可能な多段階探索交叉を改良し,人工蟻のシミュレーション,画像の非線形フィルタの設計に応用した. GPで扱う木構造は解のサイズが可変であり,部分木の単純な組み換えの繰り返しは,しばしば,探索の過程で解である木が急激に膨張するブロートとよばれる現象を引き起こす問題がある.対象とする問題は,評価値に影響を与えない部分木が多く生成され,ブロートが起こりやすい問題である.提案している多段階探索交叉は,木構造の距離の定義のもと,一方の親から他方の親へと距離を縮める方向に局所探索を繰り返し探索を進める.木の部分構造および個々のノードの記号が個体の評価値に大きく寄与することを踏まえ,交叉を適用する両親間に共通して見られる部分木およびノードを子に遺伝させるべき形質とし,それらを破壊しないような近傍およびそれに対応する距離尺度の定義のもとで,交叉を構成した.具体的には2つの木について根を起点とした共通部分木を抽出し,それとの排他的論理和で得られる非共通なノード,部分木の集合の要素数により距離を定義した.共通部分木を抽出するにあたり,非終端ノードにおいて子部分木の適用順序を考慮するため,木を有向順序木で表現している.局所探索において,現在の解からの遷移対象となる近傍解については,両親の共通部分木内部でのノードの組換え,およびその他の異なる部分木でのノードの挿入・削除により生成する.これにより,木の爆発的な成長を抑制しつつ,両親の形質の受け継ぎ方が多様な子個体群を生成した. 最適解が既知の問題である小規模の人工蟻のシミュレーション,およびスタックフィルタ設計に適用し,本手法が非常に限られた集団サイズ(一般にGPで用いられる1/100程度のサイズ)のもと,ブロートを完全に抑制しつつ最適解を高い確率で得ることを確認した.
|