研究課題
本研究ではヒトや他の動物の意思決定に直接的に影響を与える主観的価値を推定するための計算論的枠組を構築することを目的とした。この目的のもと,意思決定における価値計算過程に注目し,その過程を記述する計算モデルを用いた主観的価値の推定手法を構築した。初年度は,ヒトを対象とした意思決定課題を用いてその妥当性を検討した。平成25年から平成26年度にかけては,その手法の頑健性を検討し応用範囲を広げるため,ラットの選択行動に対して提案手法を適用した。具体的に行った実験課題は次の通りである。ラットには毎試行二つのレバーのうちいずれか一つを押すことを学習させ,ラットの選択に応じて報酬の有無が決定された。報酬有の場合の報酬量や報酬遅延は選択とは無関係にランダムに決定された。その結果,ラットの行動は報酬の有無のみではなく,ランダムに設定された報酬量や報酬遅延の影響を受けることが分かった。提案手法を適用した結果,報酬量に関しては,推定された主観的価値は報酬量の単調増加関数となるという妥当な結果が得られた。報酬遅延時間については,主観的価値は遅延時間の逆U字型関数となった。平成26年度はさらに,これらのモデルの推定結果の妥当性を評価するため,シミュレーションにより合成したデータに対しパラメータ推定やモデル選択を行った。それにより,提案した一連の手法の妥当性を確認するとともに,その適用限界が示された。具体的には,複数の結果の間の主観的価値の相対的な差異は推定が可能であるが,その絶対的な値は推定が難しいということが明らかになった。以上の本研究の成果には (i) 動物のように内観報告が難しい対象の主観的価値を推定するための手段を与えた,また,(ii) ヒトが対象の場合でも意識できない潜在的な価値を行動から推定し,将来の行動を予測するための基盤技術を構築した,という意義がある。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Journal of Neurophysiology
巻: 未定 ページ: 未定
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