研究課題/領域番号 |
24700247
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉田 寛 静岡大学, 情報学部, 准教授 (30436901)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 情報社会思想 / ガバナンス / 復興 / ボランティア / 参加 / 協力 |
研究概要 |
研究を実施している被災地の町、山元町で、町役場生涯学習課、地元新聞社である河北新報と協力し、被災者を対象にパソコン・地域SNS講習会を行った。これは、地域の方々の持つ「思い出」をSNSで共有し交流することによって、地域の自律的な復興力の向上を支援するという試みである。 こうした取り組みを通じて、単に記憶の共有や交流だけでなく、さらには記憶から継続する現在の関心、復興に向けた関心や希望の共有も含めて、復興の力になるということが分かってきた。復興を内在的に支える地域に内在する動機とは、こうした過去から将来へと伸びてゆく、共有されダイナミックに構成されていく意識なのではないかという観点が得られた。 また、次の点も興味深い。復興は、被災者だけでなく、ボランティアなどの外部からの参加者も含めて、その地域に関わる多様なアクターの柔軟な連携、すなわちガバナンスをいかに構築するかがネックである。ここには当事者性、専門性、ネットワーキングなどの論点が含まれる。この点で、SNS上に見られる交流や講習会を通じての交流で形成されていく、「思い出」そして「関心」「希望」をめぐる多様なアクター間の関係性は興味深いものがあった。引き続き、復興ガバナンスに関わる重要な論点として深めていく価値があると考えている。 こうした研究成果と2011年度の支援活動を関連させつつ、応用哲学会(4月)、『横幹』(第6巻2号)などで報告した。並行してガバナンスに関する理論研究も進め、その一環として『情報学研究』にM.Bevir氏の論文を翻訳・掲載した。 2011年度の被災写真返却のプロジェクトについては、副代表は退いたものの活動への参加は継続している。この活動については、協力者であるニフティ(株)と共にキッズデザイン賞「復興デザイン賞」を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画当初は「思い出」の媒体を主に被災写真と想定していた。それは、2011年度いっぱい、被災写真をめぐる被災地支援活動が私の主たる活動だったからである。 しかし、2012年度は被災写真の返却プロジェクトは継続しつつも、復興のフェーズにあわせた新たなニーズに対応し、パソコン講習会・地域SNS講習会を通じた地域コミュニティの支援へと活動を発展することができた。共有されるのは被災した過去の写真だけでなく、新しく復興の過程や自分自身の生活などを収めた写真、そしてこうした写真をめぐるSNS上の文章や「語り」となった。これらは、思い出だけに止まらず、現在の関心や将来への希望などにつながるダイナミックな生活史と復興史を含んでおり、それらは復興おいて、より柔軟で積極的な役割を果たすことが期待される。 復興支援は、最終的にはそれが地域にとって不要となることこそが目標である。というのは、いつまでも支援が継続される必要があるということは復興が進んでいないということになるだろうからである。従って、復興は次第に被災者自身の主体的な活動によるものに移行することが望ましい。こうした観点から見て、過去の情報を支援者が拾い集め、復元して被災者に渡すという形は確かに重要な活動ではあるが、被災者自身の力による復興にはなっていなかった。これに対して、私たちが「復興学校」と名づけたSNS講習会、パソコン教室では、被災者自身が自らスキルや機会を求めて集まり、私たちがそのニーズに応えるという、より被災者の自主性が高い支援活動へと移行しているのである。研究がこうしたプロセスを問題にできるレベルにまで活動が進展したことが、研究の進展にとっても大きい。 最後に、SNSへの投稿という形で、自然に被災者や町の人々のニーズとニーズのダイナミックな変化が把握でき、さらにはそこに書き込んで参与できる形が確立できたことも、研究方法の発展である。
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今後の研究の推進方策 |
4月には、私たちの研究グループが町役場、地元新聞社と共同で推進してきた復興学校が、町の自主文化サークルとして再スタートした。これまでは、支援者側でニーズを集めてメニューを用意し、準備をして、町の人がそこに参加する形であったが、今後は、町の人たちがサークルを運営し、私たちは求めに応じてそこにお手伝いしたり参加したりするという形になった。これは、当事者による自主的な復興への大きな一歩である。 この形での活動を有効に支援しつつ、SNSやSNSをめぐるやりとりから、こうした自主性が育つための意識のあり方、協力のあり方について、探り出していく。 同時に、ガバナンスに関する理論研究を継続して、復興活動をガバナンス的に分析、評価するための資格を鍛えていく。アメリカ、UCBの政治学部教授のBevir氏の「解釈理論」がこうした分析に有効であることが分かってきたので、被災地における活動と相互に連携させつつ、その研究を中心に参加と協力による復興ガバナンスの理論化を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
なし
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