研究課題/領域番号 |
24700247
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉田 寛 静岡大学, 情報学研究科, 准教授 (30436901)
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キーワード | 情報社会思想 / ガバナンス / 復興 / ボランティア / 参加 / 協力 |
研究概要 |
2012年度、被災地山元町で推進してきた被災地コミュニティーにおけるパソコン教室「山元復興学校」の活動が発展した、町の住民主体のパソコンサークル「山元町パソコン愛好会」への支援を継続した。愛好会では、写真などをつかった文書作成、SNSを使ったコミュニケーションなどの試みを、側面から支援するど同時に、その支援活動に内在的に、復興における写真や関係性などの示す「思い出」という情報の意味を考察した。 そして、こうした地域の復興主体であるべき当事者たちの「思い出」と切り離された従来型の行政的施策に拠る「復興」では、町の人たちにとっていみのある、そこに住みつづけたい町は甦らないことが分かってきた。ただ、かつての情報としての「思い出」を保存するだけでなく、新しい情報として「思い出」を創り出してつながりを育てていく視点も大切であることを確認した。 こうした考察を、2011年度の被災写真救済プロジェクト「思い出サルベージ」活動の報告と検討をまとめた『「思い出」をつなぐネットワーク』(昭和堂、柴田・吉田・服部・松本編著、2014)として刊行した。さらに、こうした知見を写真における「思い出」に限定せず言葉や表現一般における意味の問題として捉えなおした考察を『情報学研究』(静岡大学情情報学部)に掲載した。 課題として、参加や協力による地域社会復興のガバナンスにおいて、「思い出」を含む意味的・情報的な要素をどのように配慮できるのかということが浮かび上がってきた。この問題に対して2014年度は、これまでの実践を基礎とし、支援活動を継続しつつも主として理論的見地から理解を深め、研究としてまとめたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究から、復興支援は以下の順に進むと考えている。 1:被災者に不足しているものを外部から持ち込んで与える供給型支援(緊急ニーズに応える支援) 2:被災者自身が復興活動に参加・推進できるように被災者自身に力をつけさせるエンパワーメント型支援(本来の復興活動を目指した活動) 3:被災者自身の復興活動に協力するネットワーク型支援(本来の復興ガバナンス) 2013年度の「パソコン愛好会」の支援活動は、町の人が主体の活動であり、支援者はむしろ協力者として活動の脇役に退き、形としてはネットワーク型支援のレベルに達したと考えられる。これに対して、2012年度の「山元復興学校」はエンパワーメント型支援モデルであった。被災地の復興自体はなかなか進んでいない実態はあるが、私たちの活動実践に関しては、意識的な側面で思った以上に展開していると思われる。理論的考察はこれを後追いする形で言語化することになっているが、予想以上に実践から学ぶことが多くなっていると感じている。従って2014年度は、こうした実践的展開をしっかりと受け止め、有意義な結果を理論と的可能性して言語化する点に傾注できるようになったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
復興支援という実践活動に内在的な参与的な観察、活動における協力者ともコンタクトを密にして続けていく。 同時に、今後はこうした実践から得られた経験を理論的にまとめ上げていきたい。2013年度末に、2011年度の「思い出サルベージ」活動の報告とそこから得られた知見を整理してまとめたものを出版した。また、翻訳研究を通じて、ガバナンスに関しての理解を深めた。2014年度は、2013年度まで翻訳を通して継続的に研究してきたガバナンス理論に、「思い出」を含む意味的、情報的要素をどのように組み込むことができるかについて、理論的に知見を深める。 理論研究においては、これまで翻訳してきたガバナンス論の著者であり、現代のガバナンス理論についての世界的権威であるMark Bevir教授(UC Berkeley、Political Science Department)の協力を得ることができることになったので、これを全面的に生かして考察を進める。 昨年度のに出版した著書、論文のアイデアを批判的に再検討すると同時に、サンフランシスコ大震災などの事例についても調査して、震災復興についての知見も深める。また、翻訳を通じてBevir教授の提唱する「解釈的ガバナンス論」についての理解を深め、これを復興ガバナンスに意味的・情報的側面をどう組み込むかという理論的課題解決への手がかりを築く。
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