26年度は、前年度までの研究成果を踏まえて理論的な検討を深めた。アメリカUCバークレーに滞在し、Department of Political ScienceのMark Bevir教授の下で、復興ガバナンス、そして情報社会ガバナンス一般における物語と解釈の問題について理論的研究を進めた。 被災者の参加による被災地におけるパソコン愛好会等の活動おいて紡がれる一つひとつの物語が、コミュニティの復興、まちづくりのガバナンスにつながっていくという前年度までの復興研究の知見に対して、理論的な意味づけを行った。Bevir教授らとの議論を経て、2月にバークレー東アジア研究所での研究会で報告を行い、意見交換を行った。復興のまちづくりにおいて、物語は、復興への希望、復興計画立案、合意、協同のまちづくりを導く鍵となる。ただし、物語の外部的な押し付けや安易で陳腐な物語化は、かえって住民の主体的な復興の妨げとなる可能性が注意されるべきである。 また、Bevir教授の下でガバナンスに関する解釈についての一般的理論について研究を進め、データの蓄積・解釈・利用について、哲学的観点から理論構築を試み、社会情報学会におけるシンポジウム、学会誌等の媒体で報告した。ビッグデータを代表とする情報社会におけるさまざまな情報は、解釈されて意味づけされ、物語化されることでますます社会的な影響力を増大しつつある。ここで、それらの情報を解釈する権力が問題になり、ビッグデータをはじめとする量と質において膨大な情報については、巨大企業や行政等の権力的なコントロールが強まることを想定しなければならない。 以上の活動によって、25年度の拙著『「思い出」をつなぐネットワーク』(昭和堂、2014)で指摘した、ガバナンスにおいて言語と物語の果たす役割について、理論的重要性を確信すると共に、さらにその理論化の糸口をつかむ事ができたと思われる。
|