研究課題/領域番号 |
24700251
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
浅井 亮子 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (40461743)
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キーワード | ソーシャルメディア / 社会的リスク / アイデンティティ / 意思決定過程 / 感情 / 情報倫理 / インターネット |
研究概要 |
本研究は『不安定社会におけるソーシャルメディア利用によるアイデンティティ収束化に関する研究』との研究課題のもと、実際の社会事象をもとにソーシャルメディアへのアクセスとそこでの情報の送受信がユーザの情報行動とアイデンティティに与える影響を検討するものである。初年度は東日本大震災におけるソーシャルメディアの使用の実態と震災後にどのようにソーシャルメディアが人々の生活に根付いているのかについて具体的な使用例を鑑みながら検討を加えた。二年目の研究活動においては、人々のソーシャルメディアの利用とその利用による社会的影響や利用を促す社会的背景、また人々がその利用においてどのような意思決定を行っているのかに関して着目した研究活動を展開した。とりわけ「絆」あるいは「他者への共感」が強調される社会状況において、ソーシャルメディアがどのように人々を結びつけ、人々がその繋がりをどのように捉えているのかを情報倫理の視点から検討を加えてきた。 人々がソーシャルメディアを介して他者との交流を図る上では個人の選択・意思決定が他者との関係性に大きな影響を与える。また他者と「つながりたい・つながっていたい」という感情あるいは社会的な疎外感や孤立感が社会的に強まりつつあることがわかってきた。 こうした社会状況をもとにオンラインで友人、恋人あるいはパートナーなど人生を共有するための他者を捜す人々にも研究の視点を向けることとなった。こうしたオンライン上での人間関係はユーザのアイデンティティ形成に影響を及ぼすだけでなく、そのユーザの人生をも左右する要素となる。次年度はこれまでの情報倫理の視角に社会心理学の視点を取り入れながら、人々がソーシャルメディアを介して「つながる」状況をより深く分析し、その意思決定過程やインターネットと感情との関係について考察を進めていく所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究成果をもとにソーシャルメディアの利用におけるユーザの利用実態を理論化することに主眼をおき、研究活動を進めてきた。初年度は人々が実際にどのようにソーシャルメディアを利用しているのかを実例をもとに分析したが、それらの実例をより集積し、特定の社会状況におけるソーシャルメディアの利用における意思決定過程を研究協力者の協力のもとに理論化することに着手できた。こうした理論化の作業は自然災害だけでなく、経済危機や社会混乱といった社会の危機的状況の全般において、その枠組みや概念を適用可能とするものと考える。さらに海外の研究協力者と共同で研究を進めることによって、日本国内にとどまらずさまざまに異なる国家においてもその理論の適応が可能となると考えている。 また人々を結びつけるメディアという視点からジェンダーに関する考察も得られたことは当初の予想を超えるものであり、家族や人生のパートナーといったより日常生活の根本的な要素に密着したソーシャルメディアの利用についてもその研究課題を拡大させていける可能性を見いだすことができている。社会における危機的な状況下で普及していったソーシャルメディアは、人々の生活により密着したものとなり、その影響は個人のインターネット利用にとどまらずアイデンティティの確立や家族形成にまで及ぶ。こうした考察結果は当初には想定していなかったため、研究活動の幅はさらに広がるものとなったが、ソーシャルメディアと人間との関係性を考察する上では欠かせない研究となるものと考えている。また海外の大学において当該研究課題の成果に基づくセミナーの開催などの要請も受けるに至り、より多くの人々に興味関心を引く研究となっているとの印象を持つに至った。こうした研究課題の広がりとこれまでの研究成果を鑑み、当初の計画以上に進展しているとの評価を示した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの二年間における研究活動の成果に基づき、最終年度はソーシャルメディアの利用におけるユーザの意思決定過程をより理論的な枠組みで捉えられるように研究活動を進めていく。その研究過程においては、情報倫理の視点だけでなく、社会心理学、倫理学、哲学、社会学、政治学、ヒューマンコンピュータインタラクションといったさまざまな研究領域からの研究成果も参考にしていく。とりわけ社会心理学と社会学の概念は、人々のオンラインん上における行動様式を説明する際に有用となることから、より積極的に取り入れたいと考えている。またこれまで継続してきた当該研究課題に関するインタビュー調査を継続し、より多くのナラティブを集積しそこから人々の行動様式を一般化できるかを試みたい。インタビュー調査は日本だけでなく、英語圏を中心に海外でも実施しており、社会文化的な差異がオンラインの利用においてどのような影響を与えているかについてもインタビュー調査によって明らかにしたい。さらに集積したナラティブに基づいて調査票・調査のためのウェブページを作成し、より多くの人々に回答をもらえるようなアンケート調査を実施したいと考えている。 これまでも研究成果については雑誌、国際会議や一般公開の講義や講演会などで公表をしてきた。今後もこうした活動を継続的に行い、日本語での学術雑誌掲載だけでなく英語での論文の公表なども視野にいれ成果を出していく所存である。また所属大学における講義だけでなく、さまざまな国の大学の講義などにも参加し、より多くの質問や意見を募り今後の研究課題の発展をはかっていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していた資料の入手がインターネットを介したデジタルライブラリーで可能となり当初予定していた研究図書資料費を抑えることが可能となったことから、繰り越しが生じた。また計画していた国際会議に関しても参加費と渡航費に関して助成が得られたため、繰り越しが生じた。 次年度に繰り越された研究費に関しては、当初の計画に加えて新たに2014年8月に計画しているワークショップの開催にかかる費用(講演者の招待、インタビュー調査の謝礼や開催場所の使用料等)にあて、さらなる研究成果の獲得と公表に努めたいと考えている。また、より最新かつ充実したコンテンツを収録した情報倫理に関する研究資料の収集にも使用する所存である。
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