研究課題/領域番号 |
24700254
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
JEONG Hyeonjeong 東北大学, 加齢医学研究所, JSPS特別研究員(RPD) (60549054)
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キーワード | 脳イメージング / 言語学習 / 記憶定着 / 言語コミュニケーション |
研究概要 |
円滑な外国語運用能力には語彙力が不可欠であることから、第二言語習得研究において、語彙学習に関する効果的学習方法に関する実験が盛んに行われている。一方、脳科学においては、学習方法の違いに注目した研究が散見されるものの、ほとんどの研究が語と語あるいは語と絵の対連合学習を対象としていることから、効果的な語彙教授法に応用可能な研究は大幅に遅れている。コミュニケーション場面から学習する方法は、語彙が使われている類似した場面に重ねて接することで、言葉の形式や意味だけではなく、その語がどのような場面で使われているかという用法も習得可能であると仮定される。本研究では、多くの第二言語学習場面で使われている翻訳中心の語彙学習方法とは異なり、コミュニケーション場面から語彙を習得する方法に注目し、このような方法が記憶定着時期の語彙処理にどのような効果を及ぼすのかを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて検討した。結果を分析した結果、ミュニケーション条件で覚えた外国語を処理する際、翻訳で学習した外国語よりも、記憶を司る右半球の内側側頭葉の一部である海馬傍回を有意な活動が検出された。この結果は、コミュニケーション場面から覚えた語彙は翻訳で覚えた語彙よりも記憶が強化される可能性があることを示唆する。本研究の研究成果は言語習得という複雑なメカニズムの解明に貢献するだけではなく、コミュニケーション能力育成のための第二言語教育分野の教授法や指導法の開発に重要な視点を与える。本研究の成果の一部は、平成25年6月長崎で開かれた日本言語科学会第16回年次国際大会で発表、最優秀論文賞を受賞され、高く評価された。また、平成25年11月には北米神経科学会で成果の一部を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画とおりに、fMRI語彙習得実験を行った。右利きの36名の日本人大学生が実験に参加した。fMRI実験は一週間4名しか参加できないため、4カ月の実験期間で行った。実験は二日に分けて行われ、一日目は学習、二日目はfMRIの中で行われる単語認知課題に参加した。学習課題は、学習対象の外国語が使用されている様々なコミュニケーション場面を見ながら単語の意味を推測して覚える条件 (コミュニケーション条件) と日本語の翻訳を提示し覚える条件 (翻訳条件) の二種類の学習条件を設けた。単語認知課題では、これまで学習したすべての条件の単語の音声のみをランダムに聞いて、意味が分かるかどうかを判断する課題に行った。その際の血流の変化を3T-MRI (フィリップス社製アチーバ) で測定した。 分析の結果、コミュニケーション条件で覚えた外国語の処理において、右半球の内側側頭葉の一部である海馬傍回で有意な活動が検出された。内側側頭葉の海馬や海馬傍回はエピソード記憶と意味記憶を結び付ける働きがある領域で、言語習得においては個人の単語の記憶能力に関連すると報告されている。さらに、脳損傷の研究から、右の海馬傍回は言語コミュニケーションにおけるパラ言語的な要素の処理に関連していることが示唆されている。今回の結果は、コミュニケーション場面から覚えた語彙は翻訳で覚えた語彙よりも記憶が強化され、言葉の意味だけではなく、文脈の中でどのように使われているのかという機能まで結びつけて習得されたと考えられる。 記憶定着後の脳の変化を分析した成果の一部は、平成25年度6月に開かれる日本言語科学会第15回年次国際大会での口頭発表し、最優秀論文賞を受賞している。また、平成25年10月には「コミュニケーション場面からの第二言語習得」という内容でことばの科学会で招待講演を行い、11月には北米神経科学会で成果の一部を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年は、記憶定着前の学習時の脳活動の変化については現在データを分析中である。また、コミュニケーション場面からの文法項目や文法処理に関する実験のため、文刺激を揃え、予備実験が終わっている段階である。最初の計画通りに研究が進んでいる。 現在分析中である記憶定着前のデータと記憶定着後のデータを合わせ、言語学習に関わる脳部位の連結が記憶定着前後でどのように変化しているのかを分析する予定である。また、これらの結果を本年度中に国際雑誌に投稿する。 更に、すでに予備実験が終わっている文法項目の処理に関するfMRI実験を行い、分析を行う予定である。語彙と文法項目の実験を取りまとめ、国内外学会発表及び国際雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
殆ど研究計画通りに研究予算の執行はできたが、ほんのわずかの残額が残った形である。 平成26年度には、研究成果を発表するために、国内学会及び海外学会に参加する旅費を算定している。また計画している2つ目の実験を実施する予定であるため、fMRI実験などに必要とされる人件費、謝金を算定している。 また論文投稿や実験実施の際に必要とされる諸費用(英文校閲、印刷費、投稿料など)を必要費用として計上している。
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