研究課題/領域番号 |
24700258
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
金野 武司 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 研究員 (50537058)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 認知科学 / 人工知能 / 知能ロボティクス / 共同注意 / 意図的主体性 |
研究概要 |
研究初年度である24年度は,二者の視線インタラクションを精密に同時計測するための実験環境の整備(1)と,その環境において視線のみで行なうインタラクション実験の設計(2)に注力した.計画に基づいて予備実験を行なったところ,結果的に当初の計画が狙っていた,意図共有のための視線インタラクションを効果的に抽出できないことがわかった.実験課題の再設計に注力したため,研究成果を対外的に報告することはできなかった. 1.実験環境の整備:既に一台保有していたメガネ型視線計測装置を追加導入し,二台での視線計測環境を実現した.導入後には予備実験を実施し,注視点データと視界の動画データを同時分析できることを確認した.データ分析として,実験で提示するオブジェクトが実験参加者の視界内でどの位置にあったかを自動抽出する仕組みをARToolKitにより実現した.また,メガネ型視線計測装置が取得した動画において,視界内のどこにオブジェクトがあったのかを分析するためのプログラムをOpenCVにより開発した.ARToolKitとOpenCVによる分析プログラムにより,計測する二人の注視点データからそのときの注視対象を特定し,どの対象をどれくらいの時間注視したかを自動的に抽出できることを確認した. 2.インタラクション実験の設計:二人の実験参加者の前に色・大きさ・形の異なるオブジェクトを配置して,一方の参加者に特定のカテゴリを見ようとする意図を持ってもらうよう指示し,その意図に基づく個々の注視から,もう一方の参加者がそのカテゴリに気付くかどうかを予備実験により確かめた.実験では互いが互いの視線を確認し合う行動を起こすことを期待したが,意図を持った一方が,固定的に自分の見ようとするオブジェクトを注視し,相手の視線を確認するような行動がほとんど起こらなかった.この結果から実験課題を再構成する必要があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
追加のメガネ型視線計測装置を導入し,人どうしの予備実験を予定どおり実施できた.また,取得する注視点データと視界の動画から,注視対象を自動的に識別する分析プログラムを作成し,予備実験で得られたデータが分析できることを確認したことも,当初の計画通りである.ただし,予備実験で行なった人どうしの視線インタラクション課題では,視線を相互に調整する過程をほとんど観察できないことが分かった.これによって,課題の修正を検討する必要が生じたため,初期の結果をもって国際会議で成果を報告する予定にしていたが実現できなかった.代わりに,相互の視線調整がより頻繁に起こる仕掛けとして,相手の表情の確認を含んだ課題を考案し,実験計画の構築に着手することができた.また,この実験を人とロボットのインタラクション実験に拡張するための準備として,ロボットに表情を認識させるための,顔の特徴点を抽出するAPI(faceAPI)を購入した.また,その特徴点と実際の表情の対応関係をロボットに学習させるための顔表情データベースを購入した.表情を確認する要素の導入は,本研究計画の目的である意図の理解・共有メカニズムの解明に対して,特に相手のモデルを自分の中に形成するための仕組みとして機能することが期待される.表情認識を組み込んだ人どうしの視線インタラクション実験によって,意図の理解・共有のプロセスにおける表情確認のための視線動作を明らかにすることができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
人どうしでの視線のみのインタラクション実験に,表情を確認する要素を組み入れる.これに伴って,昨年度は視線を通じて共に同じ対象を見るような協調場面のみを課題にしていたが,例えばポーカーゲームのような競合場面を用意して,表情を推論する要素を課題に組み入れることを検討していく.当然のことながら,単純な競合場面にしてしまうと,無表情になることがほとんどであると思われるので,そこには表情が明示的に表われるような工夫が必要だと考えられる.25年度はこの工夫を考案し,実験を実施する.24年度からの予備実験と併せて,研究成果を8月に開催される国際会議(CogSci2013)で報告する予定である. また,25年度は人どうしのインタラクション実験を進めるのと同時に,ロボットを人が遠隔操作する実験を行なうための設備開発を進める予定である.人に没入感を持ってロボットを操作してもらうためのヘッドマウントディスプレイと,頭部方向を計測する機器に関してはVUZIX社製VR920を既に導入済みなので,これを使ったロボット操作プログラムを開発する. 人と遠隔操作ロボットのインタラクション実験を実施し,その成果を2014年3月に開催されるHRI2014(ACM/IEEE International Conference on Human-RobotInteraction)で報告することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
[物品費] 昨年度,メガネ型の視線計測装置を導入したことで,今後新たな実験環境の構築として必要になる大きな設備導入は予定していない.ただし,そのメガネ型の視線計測装置は,自身が所属する機関の研究者と共同購入したことで,研究費を節減することができた(未使用額の発生はこのためである).そのため,実験によって導入が必要と判断される設備が発生した場合にはそれに対応する.また,ロボットを人が遠隔操作する実験を今後予定しているが,そのための設備開発では頭部方向を検出することができるヘッドマウントディスプレイ(VUZIX社製VR920)の解像度および反応時間を懸念している.これに対しては,次世代の製品(VUZIX社製Wrap920AR)がリリースされているため,実験状況に応じてこの導入を検討する. [旅費] 成果報告として,ドイツ(ベルリン)で開催される国際会議(CogSci2013)と,ドイツ(ビーレフェルト)で開催される国際会議(HRI2014)への参加旅費を見込む. [謝金] 実験参加者への謝金を見込む. [その他] プログラム開発のための資料やライセンスの購入費用を予定している.また,実験に使用する各種消耗品の購入費用を見込む.
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