コンゴ民主共和国ワンバ村にて野生ボノボの調査をおこなった。食物分配と道渡り時の協力行動について、データを蓄積した。食物分配にかんしては、これまでに独立個体間の分配を約200例観察できている。これはこれまでのどの先行研究よりも豊富なデータ量である。これらの定量的なデータを基に、社会関係を構築するために他者から食物をねだる行動、つまり儀礼的な食物分配をボノボがしている可能性を示した。 野生チンパンジーにかんしては、調査地であるギニア共和国にてエボラ熱が発生したため、H26年度の調査は断念した。道渡りの行動を中心に、ボノボと比較する観点から、これまでに収集したデータの分析を進めた。この分析から、ボノボでは集団を守るような行動があまり見られず、見られても大人のメスが見せるのに対し、チンパンジーでは大人のオスが集団の前後を挟み、他個体が渡るのを見守るなどといった協力的な役割を果たしていることが明らかになった。チンパンジー社会とボノボ社会の違い、それに付随する協力・社会規範の違いについて明らかにした。 飼育下のボノボ・チンパンジーを対象にした観察・実験研究も継続した。統制のとれた環境下での食物分配実験・道具使用場面における社会学習などを中心におこなった。 上記野生ボノボの食物分配のデータをまとめて英文学術雑誌Behaviourに発表した。また、Behaviour誌においてボノボの特集号を企画・編集し、出版した。この特集号では、野生・飼育下の両方から世界最先端のボノボ研究を13編収録した。現在、この発展版として、Oxford University Pressから本の出版を予定しており、米国Duke大学のBrian Hare博士とともに編集作業を進めている。道渡りのチンパンジー・ボノボ比較の論文も現在投稿に向けて準備を進めている。
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